伝説の車掌-4

とにかくぶっ飛ばしていた昔の運転士

私が運転士になったのは25歳の時で、もう30年ほど昔のことです。

その当時すでに超ベテランの域に達していた、かなり強面(こわもて)の車掌さんがいました。

私より30歳ほど上の方で、中学校を卒業してすぐに入社したのは戦後すぐのころだったようです。

とにかく私が所属していた乗務区の運転士は、昔はメチャクチャな飛ばし方をする方が多くいて戦後すぐのATSなんて備えていない頃は、時刻表やダイヤなんて全く意味を持たない状態だったそうです。

とにかく乗務交代を行う駅や終点にいかに早く到着するか。

それしか考えずに乗務していたと言います。

運転士がぶっ飛ばすのに車掌がゆっくりとした仕事なんてできません。

ドアを閉めた時に駆け込み客があって再開扉なんてしたら、あとで運転士に怒鳴られたと言いますから。

 

車掌の開扉のタイミングが絶妙だった

その強面の車掌さんは、昔のそんな状況を知る数少ない方でした。

この方とはじめて乗組んだ時はホントに緊張しましたよ。

下手な運転なんてしていたら怒られそうで・・・

でもこの人と乗組んでから運転技術が向上したのも事実なんですよね。

この人と乗組むときは、1段制動で入ってできるだけ一気に全緩めで止めていました。

制動距離はv2/20で簡易的に求めるのですが、その距離に0.9をかけてそこからもう少し引いて制動地点としていました。

距離を求めてブレーキを掛けるまでは良いのですが、難しいのがそこから一気に全緩めで停目へショック無しで止めることです。

 

この強面車掌さんは列車が完全に停止する前にドアを開けます。

ドアが開け切ったときに電車がピタッと止まる、そんなタイミングで開扉していました。

これも昔の運転士が、とにかく少しでも乗務交代する駅や終点へ到着させるために、車掌に求めた操業でした。

他にも数名同年代の車掌の方がいたのですが、残念ながら仕事が滅茶苦茶なだけで・・・

ある時私は、この強面車掌さんが車掌スイッチを開きにした瞬間にブレーキ弁を全緩めにしてみました。

するとショックは無いし停目にもピッタリと止まるんですよ。

運転している本人は全緩めのタイミングが分からず四苦八苦しているのに、強面車掌さんは完全にそのタイミングをつかんでいるのですよ。

そこからは自分でも面白いように電車を止めることができるようになり、本当に仕事を楽しく感じられるようになりました。

重い言葉

このタイミングを発見した日は、超ベテランの強面車掌さんと乗組んでいることを忘れるほど快調に運転できました。

そしてその日の仕事が終わるときにこの車掌さんへ挨拶へ行くと、いつもは仏頂面しているのにニコッとしてきました。

 

数年後にその方は定年退職されたのですが、送別会に顔を出した時に

「今度はお前が後輩に教えてやれよ」

との言葉いただきました。

本当に重い言葉でした。

 

 

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