もう40年近く昔の話になりますが、今でもよく覚えていること。
駅務の見習が終了して一人前の駅員として勤務をはじめて、初めて一人泊りの駅で勤務をしたときのこと。
私が勤務していたとある鉄道会社の駅管区では、一人で泊まる駅が多数ありました。
日中は泊まり勤務者とちょっと長い日勤勤務者の2名の配置が基準でして、日勤勤務者が夜に退勤してから翌朝に日勤勤務者がやってくるまでの間は、基本的に泊まり勤務者1人で仕事をします。
同じ駅管区であっても乗降人員によって少しずつ勤務時間が違ったりしているのですが、基本は泊まり勤務者が朝8時出勤で翌朝8時まで、長い日勤勤務者が朝7時出勤で19時30分までの勤務。
泊まり勤務をしていると19時30分から最終まで、そして始発から7時まではすべて1人で駅の仕事をしなくちゃいけない。
そんな泊まり勤務をはじめて1人で行ったときの話です。
日中はだいたい1時間改札を担当すると1時間休憩というサイクルになります。
でも券売機や改集札機から警報音が鳴れば休憩中とはいっても対応はしなくちゃいけない。
※ホントは休憩ではなく立ち番がないから後方で控えているってことなのですが。
でもコーヒーでも飲みながらノンビリはできます。
日勤勤務者が退勤するまでに夕食を食べなくちゃいけないのですが、その日勤務していた駅のすぐ隣には大衆食堂があってサバの味噌煮を食べた記憶があります。
日勤勤務者が帰っていき、いよいよ1人で駅の業務・管理をしなくちゃいけない。
でも20時ごろなんて会社帰りの人が足早に駅から去っていくだけなので、一瞬賑やかになっては静寂がやってくる、そんな時間帯です。
22時ごろになってくるとお酒が入ったお客さんが多くなってくる。
20時ごろのお客さんと違って、なぜだかこちらを見ながら改札を通過していく人が多くなる。
中には
「お前新人か?まぁがんばれ!」
みたいに一言声をかけてくる人もいます。
私の顔をジーっと見ながら改集札機を出ていった初老のお客さんがいたのですが、しばらくすると戻ってきて
「これでも食べ」
といってたこ焼きをもらいました。
駅の真ん前にたこ焼きを販売する車がやってくるのですが、わざわざそこで買ってきてくれたのです。
すぐには食べることが出来ないので、最終電車が出た後食べました。
※慣れてくるとたこ焼きが冷めないうちに隠れて食べてましたけど
23時ごろになると運転間隔が空くので静寂の時間が長くなっていきます。
そして
「あと6本電車が行ったら終わりだ」
みたいな感じで改札にいましたよ。
駅庁所在駅の駅事務室から電話がかかってきて
「あと少しだからがんばって!」
みたいな言葉もかけられました。
最終電車が出ていった後、まずは券売機前のシャッターを下ろします。
そして翌日の日付に変更してから、すべての券売機の試刷りを発券して日付の間違いがないかをチェックしてから券売機の電源を落とし、さらに券売機のおおもとの制御器の電源を落とします。
改集札機の日付も翌日に変更してから電源を落とします。
改札口周辺のお金や補充券、それに手回り品切符などは金庫に入れて鎖錠します。
この駅にはお風呂どころかシャワーの設備もなかったので、仕方なく流し台でシャンプーだけして布団に潜り込みました。
でも布団に入ってからもあれこれ考えてしまうのですよね。
あれしたっけ?これであってたっけ?日付は間違っていないかな?などなど、とにかくいろいろと考えているとまったく眠ることが出来ずでした。
腫れぼったい目のまま顔をサッと洗って制服を着ます。
券売機の電源を入れてシャッターを開けて、券売機の電源を入れます。
券売機や改集札機の雑巾がけをしてから、何となく日の出間際の太陽を見ながら大きな伸びをしました。
ひょっとしたら大きな声も出たかもしれないです。
この時以来、私は泊まり明けの太陽を見ながらの伸びが習慣付きました。
駅事務室の泊りの時は、仕事が終わるまで24時間太陽の光を浴びれないこともありましたけど。
6時少し前になると売店の人がやってきて開店の準備をはじめます。
そして新聞を3~4紙と缶コーヒーをもらいました。
私この頃はコーヒーって飲めなかったのですが、明けの日の缶コーヒーで飲めるようになったんですよ。
7時少し前になると出勤の方が足早に改集札機を通り抜けていきます。
寝不足も相まって、人の流れを見ていると目が回りそうになり、本当に気分が悪くなりました。
中には改集札機を通らずに定期券を見せて入場していく人もいて、よけいに気分が悪くなったんですよ。
そこに日勤の方が出勤してきて勤務を交代。
そこからの記憶がないんですよ。
気づいたら家の布団から起き上がったところで、時計を見ると6時を指しています。
「げっ!もう出勤じゃないのか!」
朝の6時だと思って慌てて出勤の準備をしたのですが、テレビの音が聞こえてきて実は夕方だったことに気付いたのでした。