列車を止めたときの損害賠償
列車を止めると多額の賠償金が請求される、と言う話を聞いたことがある方も多いでしょう。
例えばホームから飛び込んで列車と接触し死亡するという事故は、残念ながら無くなる気配さえありません。
※数十年前よりは減っているように感じますが……
こういった事故の際に遺族には、いったいどれほどの賠償金が鉄道会社から請求されるのでしょうか。
車両の修復費用
振替輸送で他社に支払う運賃
その他設備の修復費用
事故により残業となった社員への残業代……etc
鉄道会社からは葬儀にも出席しますし(運転士は行きません)、その後の賠償交渉も社員が行います。
※賠償交渉は本社の専門職、私がいた会社では補償課と言う部署が担当
賠償の責任を負う人が死亡した場合は相続人にその負債が回ってきますが、その請求額はケースバイケースでかなり違ってきます。
相手の経済状況などを勘案して、結局はどの程度ならば支払えるかを話し合いで決めていくことになるのですが、遺族自身も精神的に参っていることも多く、正直言って交渉どころではないことが多く、私が知る範囲では私がいた会社ではほぼ賠償金を請求することは無かったと記憶しています。
会社によって考え方が違うでしょうから、JR東海のように認知症の方が列車に接触して亡くなり、遺族に720万円の支払いを求めて提訴したケースもあります。
※最高裁まで争われてJR東海の請求は退けられましたが
なので人身事故で列車を止めてしまった場合は、遺族に対して1000万円以下の範囲で請求が来ることが多いようです。
これが過失の度合いが強い場合になると状況は変わってきます。
有名なところでは1992年の寝台特急さくらトレーラー衝突事故があります。
この事故では15億円ほどが請求されています。
また私が鉄道会社へ入る前年に起きた1980年の京阪電気鉄道置石脱線事故では、実行犯の当時中学生に対して一人当たり840万円を請求(合計4200万円)しています。
ただこの合計金額は実害額の10%ほどだと言われており、大部分を保険を使って賄ったと言われていますが……
実害金額すべてを請求しないケースも
以前友人に伺ったことがあるのですが、パトカーに追われて逃走し、遮断機が下りていた踏切に侵入して列車と衝突。
夜間の事故だったのですが翌朝まで運転再開できなかったケース。
なんでも逃走した車を運転していた人は飲酒&無免許だったようで、踏切の装置一式交換、車両は故障し工場送り、列車の運転士は事故の際に足を負傷して長期間会社を休んだ。
車の運転手は死亡したそうで遺族に賠償請求がなされたのですが、その請求額に遺族は驚いて目が点になったとか。
数千万円の請求を覚悟していた遺族に提示された額は、3~4百万円程度だったとか。
保険で賄ったか、それとも鉄道会社側が損害を被ったのかは分かりません。
ただ私が伺った範囲では、相手に請求しても支払い能力はまずない、そして高額の請求をして会社のイメージを悪くしたくない、そんな思惑からではないかとのことでした。
会社によってはそれ数千万円の金額が請求されたかもしれません。
今後はシビアになっていく?
列車撮影のために線路内など立入禁止区域に入って列車を止めるなどした場合は、損害額を算定してもそれほど大きな金額にはならないと思いますから、全額請求で良いと個人的には思います。
今のところこのケースで賠償請求されたという話は私は聞いたことはありませんが、JRをはじめシビアな会社は請求する方向に傾くのではないかな。
ちなみに踏切の遮断桿を折損した場合ですが、列車に遅延を発生させなければ多くても数万円以下。
ただし列車を抑止させるなどダイヤに乱れを発生させれば、場合によっては数百万円が請求されてもおかしくはありません。
ただしこちらのケースでは遮断桿を折損した車や人が逃げることが大半で、鉄道会社が警察に対して被害届?を出して被疑者が捕まったとしても、あまり賠償請求をしたという話を聞いたことはありません。
踏切の非常ボタンをいたずらで押すケースでも賠償請求したという話は知りませんが、警察には必ず届けを出していますから(踏切にはカメラを設置いていることも多いし)捕まる可能性は低くはありません。