ホームから軌道内へ落下
車掌3年目か4年目の12月のこと。
私が担当する普通列車の最後尾に乗車してきた男性数人グループ。
忘年会帰りだと思われるそのグループは7~8人で、年齢も若い人から年配の方までいたので会社の小さな部署とかグループでの飲み会だったのでしょう。
大声を出すわけでもなく、泥酔して動けない状態でもなく、良い感じに酔っていたのか普通に会話をしています。
だいたい忘年会の帰りに乗車してくるグループは、まだ宴会の余韻に浸っているのかたいていはうるさいので、そう思うとおとなしいグループですね。
駅に到着してドアを開けると、そのグループのうちの一人が足元もおぼつかない状態で電車から降りてきました。
この駅は島式ホームなので、そのまま歩いて行くと落下するのになと思いながら見ていました。
その男性はホームの端で止まり、ズボンのファスナーを降ろして反対線路側へ放尿を始めました。
「おい、早く乗らなないと発車しちゃうぞ」
グループの方が車内から放尿する男性に声をかけました。
その声に反応したのかファスナーを上げようとするのですが、上体が前後左右に揺れて軌道内へ落下してしまいました。
私、何にもしていません…
目の前で落下していますし放置するわけにもいかず、運転士へインターホンで、
「反対線路へ酔っぱらいが落ちたので救助に行きます」
とだけ告げて乗務員室を出たものの、いざ落ちた人を助け上げようと思っても一人では絶対に無理。
でも早く上げないとマズいなと思っていたところへそのグループの人たちが電車から降りてきて、さっと軌道内へ降りて助け上げました、
助役配置駅ではなかったのですがたまたま夜間の巡回のために助役がおり、ホームにやってきたので事後処理を依頼してそのまま運転継続となりました。
私がしたことって、目の前で反対線路側へホームから落下した人を目撃。
運転士へ報告。
本当にこれだけしかしていません。
その列車を入庫させて、車庫から運転士といっしょに引き上げるときに、
「さっきダイヤを見たら、すぐに優等列車が通過するダイヤになっていたぞ」
「無線を入れて止めてくれたのですか?」
「俺は報告しただけだけど、指令が一つ前の駅で止まれと叫んでいたよ」
何もせず見学していた私を尻目に、みんな動いていたわけですね。
この当時はホームの非常通報もなければ防護無線もなかった、私がいた会社。
それでも今思えばこの手順はダメダメでしたね。
かなり意外な展開が
翌日お昼過ぎに出勤すると、乗務区の奥にある応接室に入るように言われました。
「電気通信課の課長が来てるぞ」
電気通信関係の設備なんて触ったこともないし、何かしたかなと思いながら応接室に入っていくと、一人はスーツを着ておりこの人が課長だなとすぐに分かったのですが、その横には包帯が巻かれて顔がほぼ見えない人が。
「昨日は部下がご迷惑をおかけしまして……」
落下した人たちはみんな当社の社員らしく、二人に平謝りされました。
課長はこの忘年会には参加していなかったようです。
「でも、何もしていませんから……」
「ダイヤを見たら2分後には通過列車があるし、すぐに連絡していただいたから助かったのですから」
包帯をぐるぐるに巻いている人は涙を流しながら頭を下げてくるし、何もしていない私にすると逆に恐縮しちゃって……。
自社の車内だから迷惑をかけてはいけないと思ってみんな静かにしていたらしく、でも我慢できなくなって電車を降りてホームから放尿したとのこと。
頭から落下しましたが骨折はしておらず、かなりの裂傷を負ったようでした。
お詫びの品ですとお菓子の詰め合わせをいただいたのですが、本当に何もしていないので昨日の運転士に渡そうと思ったのですが拒否され、結局家に持ち帰って一人で頬張ることに。
そのあたりは乗務員や助役たちよりかなりマシかもしれない。
また機会があれば書きますが、助役たちが飲み会帰りの車内で大暴れしたので、○○助役と○○首席助役がと実名を出して無線を入れたこともありますから。