また車掌の見習時代の話です。
最近は自動放送も着実に増えてきていますが、それでも車掌の肉声を聞くことのほうが多いかな。
毎日のように同じ電車に乗って通勤や通学をしている方々って、たいていは車掌の放送文を記憶していますよね?
そして普段と違うことを放送する車掌にあたると、おや?と思って放送の方に神経を持って行かれたりします。
もちろん放送を間違えたりするとよけいに放送に集中してしまいますし。
車掌の放送にはいわば“教科書”のようなものがあって、車掌の見習の間に覚えていきます。
鉄道が好きな人にしてみれば車掌の放送なんて簡単に覚えられるし、そもそもそんなことが仕事だなんて!って思う方もいらっしゃるでしょうね。
でも私はなかなか覚えることが出来なかった。
とにかく放送の教科書に載っている通りに、一字一句間違わずに放送しなきゃいけなかったんです。
「〇〇方面には」
「〇〇方面へは」
私は“には”より“へは”のほうが良いんじゃないのかなって思っているのですが、教科書には「〇〇方面には」と記載されている。
こういう小さな部分までチェックされるのがしんどかったです。
以前にも書いたことがあるのですが、昔は決まった文章以外を放送してはいけないというルールがありました。
もちろん事故などでイレギュラーな放送の場合は許されていたのですが、普段の通常の放送にアレンジを加えて放送すると、上司からも労働組合からも怒られてしまうのです。
最近は他社線の乗り換えも放送するのがふつうになっているようですが、昔は他社線の乗り換えはほとんど放送することがなかったので例えば
「国鉄線はお乗り換えです」
みたいに教科書には載っていないことを平常時に放送すると、ホントに怒られていましたからね。
「おまえは良かれと思って放送しているのかもしれないが、その放送を聞いた客が、他の車掌は放送していないと苦情を入れたらどうするんだ!きちんと決まり通りに仕事をしている車掌がサボっているかのように言われるんだぞ!」
と上司から。
「おまえが行った放送が客の受けが良いからと、会社側が全員に行うようにと指導してきたらどう責任を取ってくれるんだ!」
と労組側。
私は教科書通りの文言を覚えるのに四苦八苦したので余計なセリフなんて言えるはずもなかったのですが、鉄道が好きで入社した同期生は本当にこのようなことで怒られていましたからね。
ちなみに私は車掌の見習が終わっても放送をきちんと暗記できず、一人乗務になってからも教科書をカバンに忍ばせていました。
でも
異常時は必要であると思ったことをドンドン放送していましたよ。
何度か上司から怒られたことはありますが。