人間ってマズイ!と思うことがあると足に力が入りますよね?
電車の運転士をしていてマズイ!って思うことと言えばやっぱり
「停止目標までに止まれないかもしれない!」
っていうときがもっとも多いと思います。
最近は都市部の鉄道を中心にさまざまな設備を導入していて、所定の位置までに止まれるように自動的にブレーキが入ったりしますよね。
でもそんな装置はほんの一部の路線だけでしょうから、たぶん今でもブレーキを掛けながら足に力が入るっていうことは少なくないのではと思います。
運転士の義務の一つに「気笛の吹鳴」というものがあります。
必要な場合には遅滞なく気笛を鳴らさなければいけないのですが、そのために気笛ペダルの上に常に足を載せておくことが求められていました。
私が勤務していた会社だけかな?
車両によって気笛ペダルの取り付け角度が違っていて、中にはものすごく角度が急なペダルもやっぱりあるんですよ。
若いころなんて
「絶対にペダルに足を載せておかなきゃ!」
と強く思っていたものだから、急角度のペダルであっても足を載せておくものだから脛(すね)をつりそうになっても頑張って載せているわけですよ。
頑張って終点の駅まで足を載せ続けていたら、エンド交換の際にホームを歩くのが大変でね。
そして気笛ペダルは取り付け角度だけではなくて、遊びの幅が相当違っていたりしました。
少々踏みつけても全く吹鳴しない気笛もあれば、軽く足を載せただけで小さな低い音で
「ブーーーーーーーー」
って鳴り続けている気笛もありました。
最初はその音が何なのかわからず、すごく不快な電車だなと思いながら運転を続けていてね。
ペダルに載せている足を下ろすと音が鳴りやむわけですよ。
そこで気笛ペダルを手で軽く触れたら、やっぱり小さな低い音が聞こえてくる。
乗務員室内で聞こえるということは、外ではもっとはっきり聞こえているはずです。
気笛ペダルに足を載せているだけでは通常は音は鳴らない気笛ですが、足に力が入っているときにもやっぱり小さな低い音で鳴ることがあります。
冒頭に書いた
「停止目標までに止まれないかもしれない!」
と焦って足に力が入りながらブレーキ操作をしているときです。
運転士になって数か月たったころだったかな。
それまではブレーキが甘いということを頭に置いて運転していたのに、ある駅の入駅時にはすっかり抜け落ちていてふつうの制動距離しか取らなかったのです。
ブレーキを入れた瞬間に
「まずい!」
と思って全制動(常用ブレーキで最も制動力が強いブレーキ)を投入。
みるみるうちに停止目標が近付いてきて
「すべる!」
※すべる=停止目標までに止まれず行き過ぎることで「過走」のこと
最後の最後にブレーキが利いて一気に全緩めして停止目標から50cmほど過ぎて停車。
その時に乗務区の助役が添乗のためにホームにいたのですよ。
「えらい勢いで入ってきたな、足にも力が入って“ビビりホイッスル”が鳴ってたし」
止まれるか行き過ぎるか微妙な時に、足に力が入って気笛が微妙に鳴ることを一部の助役や運転士は
「ビビりホイッスル」
と呼んで笑っていました。
多くの運転士が同じことを経験することから、こんな名前まで付けられたようです。
※「ビビりホイッスル」は他の私鉄で呼ばれていたものが伝わり入ってきた言葉みたいです