ATS(自動列車停車装置)のトラブルってネットニュースを見ているとたまに掲載されていますが、それはあくまで列車の運休を伴うような場合だけで、実際にはかなり多いものです。
中には乗務員のATSの扱い方のミスもありましたしね。
私が勤務していた会社の車両は、今は全車両が前後スイッチ(ドラムスイッチ)を「前」位置にすると自動的にATSの電源が投入されて、「後」位置にすると自動的にATS電源がオフになります。
ところが私が運転士になった昭和の末期は、ATS電源のスイッチが前後スイッチとは独立して別に設置されている編成が半数ほどありました。
作業としては運転士がエンド交換して乗務員室に入ると、まずは前後スイッチを「前」位置にしてからATS電源のスイッチを投入。
この流れを間違える人はいませんでしたが、逆にエンド交換前の乗務員室から出る作業においてATS電源を切り忘れることがたまにありました。
運転士がATS電源を切り忘れても、たいていの場合は車掌が気付いて電源を切ります。
独特のキーンって音が耳に入ってきますからね。
中にはそんな音なんて気に掛けない車掌も当然いますから、車掌側の乗務員室のATSが入りっぱなしということもありました。
運転士は出発信号機の現示を確認し、戸閉めランプの点灯と車掌からの出発合図を確認し、ブレーキを全緩めにしてノッチを入れる。
速度が5Km/hが超えたところでいきなり全制動でブレーキがかかる。
運転士の側では特に何も変わったことはないが、車掌が乗務する側ではATSの警報音が鳴り響く。
運転士側のATSは、信号機がG(青)現示など進行を指示する信号の現示のため動作はしません。
ところが運転士が切り忘れた車掌側のATSはノーコード状態。
※終点などに入線する際に15Km/h以下のコードを受信し、その後一定時間経過するとコード無しに落下。仕様上5Km/hまでは転がすことができ、5Km/hを超えるとATS制動が全制動で入る仕組みになっていました。
それで慌てて運転士が車掌に連絡するのです。
「ごめん、運転台の上のATS電源を切ってください」
車掌がATS電源を切ると、ATSが解除されてブレーキが緩んで運転を継続できる。
電磁直通ブレーキの車両がこの仕組みになっていて、全制動だけではブレーキが利きだすまでに約3秒ほどかかることから、ATSの動作と同時に予備直通ブレーキも同時に動作する仕組みになっていました。
なので車掌がATS電源を切った瞬間には、予備直通ブレーキが抜ける「ブシューーーー」という大きな音もしていました。
運転士がATS電源のスイッチを切ってエンド交換したのに車掌がわざわざスイッチを入れて、走り出した途端にATSが動作するわ警報音が鳴り響くわでパニックになって、ATS電源を切ることができなくなる車掌もいました。
「ATSのスイッチが落ちていたから入れたのですけど・・・」
って言って必死で謝ってきた車掌もいましたよ。
ちなみに私が勤務していた会社の車両では、運転士側でATS電源スイッチを入れない場合にはATSブレーキが動作しっぱなしとなり、ブレーキを緩めることができませんでした。
なので運転士がATS電源を入れ忘れて運転するという事態はありませんでした。
国鉄とはATSの仕様が全く違いましたからね。