たばこに寛容だった時代
喫煙ルームなどではなく、客室の座席に座ってたばこが吸える電車ってほぼ無くなりました。153系や117系時代の新快速なんて、京都以東と西明石以西では座席に座りながらたばこが吸えたのに。
新幹線だって元は全席でたばこが吸えた時代が長くて、少しずつ禁煙車が増えていったという歴史があるのですけどね。
しかし東京や大阪など大都市の区間内の通勤電車は昔から禁煙が当たり前でしたし、ロングシートだからたばこはダメなんだという認識すらあったほどでした。
客室でたばこを吸っていた時代
ところが私が車掌だったころ、例えば年に何回かある講習の時には実車を使うことが多かったのですが、灰皿代わりの缶を持ち込んでごく普通に客室内でたばこを吸ってました。
出庫作業を終えて入換信号機の現示を待つ間に、客室でたばこを吸う車掌や運転士も本当に多かったですよ。出庫で電車に乗っているので灰皿なんて当然なく、吸い殻を車内の床で踏みつけて火を消して外にポイ。なので運転台のすぐ後ろの床面には、黒くなった焦げ跡がいっぱいありました。
出庫の時だけではなく、引き込み線とか引き上げ線に入っている間にたばこを吸う車掌や運転士も多かったですよ。引き込み線で乗務員室が停車する位置あたりのトラフ(溝)には吸い殻が大量に溜まっていましたからね。
客室でたばこを吸う間はドアを全開にして煙やにおいを外に逃がしていましたよ。でも、多少はたばこのにおいは残っていたはずなんだけど、それで苦情が来たというのは聞いたことがないですね。
気を遣う乗務員は客室ではなく乗務員室内で吸っていましたが、交代した時にたばこのにおいが残っていて気持ち悪くなることが多々ありました。
くわえたばこで電車を運転する
ホームで交代のために列車の到着を待っていました。だいたい所定到着時刻の3分前にはホームに立っていたでしょうか。
季節は冬で夕方の帰宅時間帯の優等列車だったのですが、ヘッドライトがまぶしかったですね。
ジーっと見ていると、オレンジ色の火が車外へ飛んでいくのが見えました。この時は本当にどこかの配線がショートして、オレンジ色の火花が飛び散ったのかと思いました。
交代する車掌にそのことを言おうとすると
「おっさん、今日もたばこを投げ捨てたのと違うか?」
「あのオレンジ色の火ってたばこですか?」
「うん、いつも暗くなってカーテンを引くとたばこを吸いながら運転するんだ」
その運転士はずっとたばこを吸いながら運転していたようで、交代する車掌みんなが
「入駅の手前で赤い蛍が飛んだだろ」
みたいな引継ぎをよく行いました。
ところがある時いつものようにたばこを吸いながら運転していると
「たばこを吸いたい気持ちは分かる、でも俺も我慢してるんやからお前も我慢しろ」
なんと乗客にそう注意されてしまい、その後はたばこを吸いながらの運転はしなくなったそうです。