昔のダイヤ編成はかなり無茶な部分があって、各駅停車より運転時間が長く設定されていた優等列車の話もしましたが、それ以上に困る列車がありました。
回送列車です。
朝ラッシュの時間帯にターミナル駅方向へ運転するために、車庫のある駅から送り込む回送列車や、逆にラッシュ帯の運転を終えて車庫のある駅まで回送列車が設定されています。
特にイヤだったのが朝の送り込みの回送列車でした。
一例ですが、各駅停車のある駅間の運転時秒が2分30秒の設定で停車時秒が20秒だとします。
この同じ区間を回送列車は2分50秒とか3分という運転時秒の設定の場合があります。
各駅停車は減速して駅に到着し、その後20秒間止まって出発するまでの時間が前駅から見ると2分50秒。
なのに通過する回送列車が2分50秒とか3分の設定のケースがかなり多く存在していました。
昔は特に気にすることなく回送なんて運転していましたよ、とにかく各駅の通過時間より遅れなければOKと言われていましたから。
回送列車の通過が遅れて後続の列車が定刻で運転できないのが最も悪い、という考え方が支配的でしたから。
先の例の場合、回送列車は気にせずに2分10秒とか20秒で通過し30秒以上の早通過でも特に問題は無い、という考えが普通でした。
2000年ごろからだと思いますが、回送列車の通過に関して沿線の住民からいろいろとご意見をいただくようになり、その中でも特に踏切の閉鎖時間に関するご意見がかなり多くなりました。
先ほどの回送列車の例でいうと、運転士によっては30秒以上の早通過をするし、別の運転士は20秒以下の早通過、生真面目にかなりゆっくり走らせて定時で通過する運転士もいるとします。
すると日によって踏切の閉鎖時間がかなり違ってくるのです。
毎朝家を同じ時間に出て歩いて駅まで向かうのだけど、途中で踏切を渡る必要がある。
おとといは上り列車が通過した後に踏切がいったん上がり、渡り終えた後に踏切が閉まって回送が通過していったが、昨日は上り列車が通過した後も踏切が閉まりっぱなしで回送が通過するまで渡ることができなかった。
今朝は上り列車が通過した後一瞬だけ踏切が鳴りやんだが上がることはなく、昨日以上に回送列車がゆっくり通過していき、踏切を渡ってからは急いで駅まで歩く羽目になった。
回送列車の通過時間はなぜここまでバラバラなのだ……
こんなクレームが寄せられることが増加していったのです。
沿線に住む人にとっては、日によって踏切の閉鎖のタイミングがまったく違うと生活にも影響が出るので、たしかに大きな問題ですからね。
それで会社側からは全運転士に対して回送列車の運転について注意するように指導され、特にクレームの来る回送列車に対しては乗務前に個別に注意されることに。
そもそも各駅停車よりも運転時秒が長い通過列車を設定すること自体が間違っているのではないか、といった反対意見も運転士側から出されましたし、中には対象の回送列車の運転曲線を示せ!なんて言う運転士もいましたが、おそらく今も各駅停車よりはるかに遅い回送列車は設定されているでしょうね。
何とか遅い回送列車をスタフに書かれた時間で運転してもクレームが来るんです。
それも別の駅間の踏切の閉鎖時間について。
かなり怒って駅に怒鳴り込んできたと上司に言われたのですが、運転指令に残っている私が運転した回送列車のデータを取り寄せたところ、駅によっては数秒の誤差はあったけどほぼ定時で運転していることが分かったのですがそれでも、
「気を付けて運転してくれ……」
運転本数が多い時間帯の開かずの踏切の問題ではなくその前の時間帯の、日によって閉鎖時間が異なる踏切問題。
おおむね5時から6時台にこのようなケースは多いと思いますが、心当たりのある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
路線の大半が高架や地下化などで立体交差化されていればそこまで神経質に運転する必要はないと思うのですが、踏切がある以上は閉鎖時間も考えながら運転する必要がある。
会社側は踏切の閉鎖時間も考えながらダイヤを設定しているとは言っていたけど、にわかには信じられないが……
早く運転するのは難しくはないけど、普段運転している各駅停車よりも遅く通過させるのってかなり難しい。
30秒以上遅く通過させるのって運転士の感覚が試されますからね。