都市部の鉄道では今春バリアフリーのさらなる進展のために、普通運賃は一律10円値上げなどのバリアフリー料金が導入されました。
可動式ホーム柵(ホームドア)のほかエレベーターの設置や段差の解消などに充てるための料金を、別途上乗せしました。
安全面の向上は結果的に利用者に直接返ってくるものですから、思ったほどの反対も聞かれずにすんなりと導入されました。
でも筆者にすればもっと都市部の利用者は怒っても良いような気もするのです。
赤字路線は公表されている路線だけではない
JR各社は特に利用者が多くはないローカル線を対象に、その区間と赤字額を公表しています。
たとえばJR西日本の場合は17路線30区間を対象に発表されています。
営業係数(100円得るために必要な費用)の悪い順のランキングでは
- 芸備線 東城~備後落合
- 木次線 出雲横田~備後落合
- 芸備線 備後落合~備後庄原
- 大糸線 南小谷~糸魚川
- 芸備線 備中神代~東城
- 福塩線 府中~塩町
- 姫新線 中国勝山~新見
- 因美線 東津山~智頭
- 加古川線 西脇市~谷川
- 山陰線 益田~長門市
- 越美北線 越前花堂~九頭竜湖
- 木次線 宍道~出雲横田
- 山陰線 長門市~小串・仙崎
- 小野田線 小野田~居能など
- 山口線 津和野~益田
- 山陰線 城崎温泉~浜坂
- 姫新線 上月~津山
- 芸備線 備後庄原~三次
- 関西線 亀山~加茂
- 山口線 宮野~津和野
- 芸備線 三次~下深川
- 山陰線 浜坂~鳥取
- 美祢線 厚狭~長門市
- 姫新線 播磨新宮~上月
- 姫新線 津山~中国勝山
- 紀勢線 新宮~白浜
- 小浜線 敦賀~東舞鶴
- 山陰線 出雲市~益田
- 岩徳線 岩国~櫛ヶ浜
- 播但線 和田山~寺前
この中で輸送密度が1000を超えているのは岩徳線だけで、他の路線・区間はそれだけ利用者が少ないということになります。
ではこれ以外の路線は黒字なのかというとそうではありません。
コロナ禍前であっても上記以外にも赤字路線は多数あり、参考データとして東洋経済のJR大赤字線は100円稼ぐのに800円も掛かるをご覧いただくとわかるように、かなり赤字路線自体は多いのが実態です。
結局は利用実態があまりにも少ない路線だから議論の対象になっているわけで、実際のところ鉄道の役割は終わっていると見られているわけです。
JR西 17路線30区間の赤宇額は247億円だが
先にも述べたように赤字路線はほかにも多数あるので、赤字の総額はもっと大きな額になるでしょう。
それらの赤字を新幹線をはじめ都市部の路線の収益でカバーしているのが実情です。
ただしJR西日本の公表された17路線30区間は赤字である上に利用者数が極めて少ないという、大量輸送を得意とする鉄道の優位性が発揮できないことから議論の対象になっているわけです。
この247億円の赤字ですが、当然ですが現状では他の路線で稼いだ収益を突っ込んで路線を維持させています。
ところで2023年春からは、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用して都市部と近郊区間における可動式ホーム柵や昇降式ホーム柵(ホームドア)などの設置のほか、ホーム安全スクリーン、段差解消設備、エレベーター、エスカレーター、ホームと車両床面の段差隙間縮小などバリアフリー設備の拡充を進めていきます。
鉄道駅バリアフリー料金制度によって普通旅客運賃一律10円、定期運賃は通勤だけですが一律で1ヶ月300円、3か月900円、6か月1800円が上乗せされ、JR西日本の計画では23~24年度は年間で52億円、25~27年度は年間で73億円がこの運賃の上乗せで得られます。
5年間で計323億円が得られますが、5年間のバリフリー関連の支出は474億円ですから、約150億円は持ち出しとなります。
鉄道の役割は終わっているように思われる路線・区間に年間247億円も持っていかれ、利用者が多く安全対策が急がれる区間では別途料金が上乗せされる。
せめて5年間で別途支払わされる323億円、1年平均で64億円ほどを17路線30区間の運賃に上乗せするのはおかしな話ではないと思いますが。
64億円分の運賃改定を行ったとしても、それでもまだ180億円以上はその他の路線の収益から回されるのですから、まったくおかしな話ではないと思います。
すべての路線の収支係数を公表すればもっと見えてくる
今、正式にはJR各社は路線ごとの収支状況を公開はしていません。
東洋経済のJR大赤字線は100円稼ぐのに800円も掛かるもあくまで推測値です。
もしもJR各社が正式なデータを公開すれば、ここまで筆者が書いてきた以上の反響があるでしょう。
営業収支が極めて良好な路線を利用している人からは、たとえばもっと混雑を緩和させるように列車運転本数の増加や増結、さらには駅の設備の改良についてもっと意見が出てくると思います。
当然ですがホーム稼働柵の設置をもっと急ぐようにとの意見も出るでしょうし、バリアフリー料金の加算についてももっと何らかの意見が出てもおかしくはありません。
そして支払った料金が自分が利用している路線へ還元されず、他の路線の赤字の穴埋めに使われていることに対して、もっときつい意見が出てもかしくはないでしょう。
もちろん赤字路線と言っても各社が保有する路線に違いはありませんから、収益の一部を一切赤字路線に回さないということは今後も起こりません。
でも都市部では施設の充実のためにバリアフリー料金を別途負担している現状を考えれば、赤字路線を維持するために、赤字路線は現行料金にさらに上乗せするという考えがあっても不思議ではありません。
JR西日本や東海、東日本、九州は上場会社なのですから利益の追求をするのは当然ですし、今のように赤字を垂れ流すだけの路線へ補填を続けることを、いつまでも株主が許すとも思えませんし。
どうしても鉄道を残すのならば自治体が主導で
沿線人口も利用者数もかなり少ない公表された路線については、JRという会社が維持管理運営するのは限界を超えていると思います。
それらの路線を維持するためには、結局は自治体や国そして利用者負担がなければ存続は無理です。
維持費のかかる鉄道からバスなど別の交通機関に変えていくしか、現状では手はないと思います。
鳥塚亮氏が唱える観光鉄道化も考えられるのですが、これだけ多くの公表された各路線すべてを観光鉄道化して収益を得るのもかなり難しいと個人的には思います。
各地域に1~2か所程度ならば経営も何とかなるかもしれませんが、対象路線があまりにも多すぎます。
すべてを観光路線化しても当初は観光客も来るでしょうが、各路線ごとの違いをうまく打ち出し続けることができれば良いのですが、飽きられてしまって赤字が現状よりひどくなることも十分考えれらますから。
JRは無理だと言っているのに等しいわけですから、自治体側がどうしても鉄道として残したいのであれば、赤字額の大部分を自治体が補填するか、各自治体がJRから路線をすべて買い取って、公営の鉄道として存続させるしかないでしょう。
ただ国鉄を分割民営化するときに、国は基本的にローカル線を廃止にはさせないと言っていた記憶があります。
自治体側はこれを盾に抵抗を続けるかもしれませんが、だからと言って維持が難しい鉄道を国税で支えるのもどうかと思います。
それならばバリアフリー料金などを取らずに国税で設備を充実させるのもありですからね。
鉄道業界に長年身を置いてきた者からすると、やはり鉄道は維持してほしいとは思います。
だからと言って赤字を垂れ流す路線を維持し続けるのもまた違うような気がします。