私が車掌の頃の話です。
古い抵抗制御と電磁直通ブレーキの車両で支線を走行している時に起こりました。
支線の始発駅で出発合図のブザーが鳴るのを待っていた車掌。
パラパラっとお客さんが乗ったタイミングで駅構内に出発合図のブザー音が鳴り響きます。
車掌はブザーが鳴りやんだタイミングで手笛を吹こうと口に咥えました。
“プッシュー”
ブザーが鳴りやむ前にドアが閉まりました。
この時の車掌は
「運転士が閉めたのかと思った」
と後で助役に話したそうです。
車掌はそのまま運転士に対して発車の合図を送り、運転士は合図灯の点灯とともに確認の上で列車を出発させました。
この時の運転士は
「若い車掌なのにかなり早くドアを閉めるやつだな」
と後で助役に話したそうです。
次の駅に到着寸前に列車の速度が5km/h以下となり戸閉保安装置が解除され、こんどはかってにドアが開きました。
何せ車掌が乗務している側の車掌スイッチは「開」のままなのですから。
ホームに車両のすべてが収まった状態だったこと、始発駅と同じ側にホームがあったことで、特に事故などにはなりませんでした。
勝手にドアが閉まった原因は結局分からずじまい。
車両課の人たちも図面と実車をにらめっこしながら探ったようですが、同じ状況の再現もできなかったようです。
今ならばこのような車両はすぐ車庫に放り込むのですが、この時はそのまま走行させていました。
そして今ならば新聞やテレビで取り上げられるような大きな出来事になるかもしれませんが、30年以上前は会社が自ら公表することはありません。
この出来事は乗務区内でも事故としては扱われず
「そういう時は出発合図を運転士に送っちゃダメだぞ」
程度の注意で終わったと記憶しています。
なので同じ時期に同じ乗務区に所属していた乗務員でも、このようなことがあったことを知らない人も多かったようです。