訓練列車を出庫させる前に行う作業、もちろん制動試験や起動試験は行いますよ。
それ以外にブラインドをすべて閉めて回ります。
すべてのブラインドを閉めてしまうここ最近の理由ですが、乗務員が制服姿で車内のシートに座っているところを見せないためなのです。
訓練列車なのですからお客さんは乗っていませんし、車内は乗務員と指導役の係員だけに決まっているわけですが、でもブラインドを閉めないと後々大変なのです。
“制服を着た人間が大勢で車内で座っていたが、おたくの会社の教育はどうなっているんだ!”
って苦情が本当に来るんですよ。
ブラインドはもちろん全部閉めておいいたのですが、一時期は
“駅に停車中は全員座らないように!”
なんて馬鹿げたことを言う上司まで出現しましたからね。
ただ昔の訓練列車では違った意味合いからブラインドをすべて閉めていました。
昔は出庫させるときにその日の指導役が灰皿代わりの大きめの缶をいくつか持ち込み、訓練列車の車内でみんなが自由にタバコを吸っていたからです。
私が勤務していた会社は昔から車内禁煙でしたよ。
でも訓練列車の車内ではごく普通にみんなでタバコを吸っていました。
さすがに乗務員が制服姿でシートに座り、禁煙の車内でタバコを吸っているところを見られたら大問題になりますからね。
“キチンと灰皿を設置しているので列車火災の危険性はないから”
みたいな勝手な理論がまかり通っていましたから。
私が運転士になって数年したころ急に
“車内は禁煙だから訓練列車内でもタバコはダメ!”
と至極当然なことを上層部から言われだしたのですが、あの当時のベテラン車掌さんたちはマジで猛反発していましたよ。
指導役は当然灰皿を用意しませんので、ベテラン車掌の方々はポケット灰皿を持ってきて自由にタバコを吸っていました。
今なら処分されると思いますが、あの頃はベテラン車掌さんたちの力のほうがはるかに強く、この人たちが退職や駅へ異動するまで車内でのタバコは黙認状態でした。
それでも例えば列車火災時の避難誘導訓練なんて時には、口ではいろいろ文句を言いながらも参加していました。
何かあった時には自分の身に降りかかってきますからね。
私が車掌になったころと運転士として最後を迎えたころと、全く同じような光景が訓練列車内で見られもしました。
それはおしゃべりです。
乗務員同士での雑談がほぼメインではありましたが、でもいい機会だとばかりに指導役を質問攻めに合わせたりもしました。
「こないだの○○のミスって本当は何が原因だったの?」
「××助役のミスって乗務員全員がうわさ話で共有してるけど、こまかく事情を教えてくれ」
なんて感じだったかな。
たまには公表はおろか社内でも一部しか知らない一大事を聞き出したりね。
訓練列車といっても走行中ずっと訓練をしているわけではありませんから、車内はだいたいこんな感じでした。