車掌になって2年目だったかな?
下り普通列車を担当しているときでした。
ある駅で乗降終了を確認したのちドアを閉めて出発合図を運転士に送ります。
※関西の私鉄では昔から運転士に対して発車合図のベルやブザーを2点送ることになっています。
電車が動き出し特に変わった様子もなく出発監視をします。
ホームの先のほうで手を振る小さな子供が見え、せっかくだから振り返そうと構えていました。
その子供の横にいたお母さんは、急に慌てふためいた様子になって何やら大声で叫んでいます。
出発監視中は風切音があるのでほとんど声は聞こえませんでした。
ホームから完全に離れてから後方の異常の有無を確認するため振り返ったのですが、そのお母さんはやっぱり何か叫んでいるように見えました。
次駅の駅名を放送し客室のほうを向いていると、中年のおじさんがこちらへ向かって歩いてきます。
※車掌をしているとき、こちらに向かって歩いてこられるのってマジで嫌でした・・・
「おい!迷子や!さっきの駅で降りてしまったんや!」
よーく話を聞いてみると、子供だけが先ほどの駅で降りてしまったと言うのです。
これは休日になると割とよくあるんですよね。
興奮気味のそのおじさんから、その子供の名前や年齢を聞き出して列車無線で運転指令に報告します。
降りてしまったであろうその駅の駅員に迷子を確保してもらうためです。
「その迷子の方を駅員が探すように手配しました。見つかれば駅の事務室のほうで待ってもらう算段にしています」
車掌ができることってこのくらいですから。
「わしはどうしたらええんや!」
と興奮気味に話すので
「次の駅で降りて、迷子の方がおられる駅へ向かうほうが良いと思います」
「だったらこの電車を早く次の駅まで運転せんかい!」
何を言われたって、電車はダイヤ通りに運転するのが基本です。
“こちらは運転指令、○○列車の車掌応答願います”
何かなと思って無線に出たのですが
“迷子の方はお母さんと一緒におられます。お父さんに○○駅へ向かうよう伝えてください”
迷子の方はお母さんと一緒にいる?
じゃあ迷子じゃないだろ?
まさか
手を振っていたあの子供が迷子で、必死で何かを叫んでいたあのお母さんと一緒にいるってこと?
とすると
迷子はこのお父さん??
あとで聞いたところ、やはりはぐれてしまったのはそのお父さん。
そして私のほうに手を振っていた子供と必死で叫んでいたお母さんからはぐれてしまったようです。
だとすると
「おい!迷子や!さっきの駅で降りてしまったんや!」
ではなく
「おい!俺が迷子や!俺を忘れて妻と子供だけで降りたんや!」