とにかく飛ばす運転士が多かった
私が車掌になった1983年当時、徐々に少なっていたぶっ飛ばす運転士。
あいつは親の仇みたいにぶっ飛ばす
とか
あいつはノッチのオフの仕方を知らない
なんてよく冗談で言っていましたが、実際にそういった運転士と乗組んでいると乗務員室の中を左右に飛ばされて、体のあちこちをぶつけたりしていました。
私と同期の車掌があまりにも激しく乗務員室内で飛ばされ、その際にベルに体が当たって鳴り響き、運転士が慌てて非常ブレーキを入れて列車を止めた、なんてこともありました。
曲線と曲線の間に続く直線区間を、誰がもっとも速度を出すことができるかなんていうチキンレースのようなことも。
詰所の黒板に日にちと出した速度を書いて競い合っていましたし。
信号機の現示に対する速度制限はATSで抑えられていましたが、駅間の最高速度はATSでカバーされていない時代だったし。
常に速度計が0だった運転士
私より10歳以上は上の方はみんなすごい運転をしていたのですが、その中でも際立っていたなぁと思う方の話です。
私が車掌の時に何度も一緒に乗務した運転士ですが、優等列車を担当しているときはすぐに先行列車に追いついてしまい、頻繁に注意信号ばかりを見ながらの運転になる人。
「今日もめっちゃ飛ばしてましたね」
終点に付いてその運転士にそう話すと
「おう、早着してタバコを吸う時間を作ってたからな」
この当時はホームは禁煙ではなく、ホーム上の至る所に灰皿とゴミ箱が設置されていた時代。
その運転士はとにかく飛ばして早着して、本当は30秒とか1分しかない停車時間を2分以上に広げてはタバコを吸っていました。
※駅構内の禁煙が進んでいったのは1987年のロンドンの地下鉄 キングス・クロス・セント・パンクラス駅での火災が原因で、先ずは地下線内が禁煙になり、その後副流煙の問題など健康面で不安視する声が大きくなり、嫌煙運動の広がりもあって地上や高架の駅でも禁煙が広がっていきました。
この運転士がなぜそこまで飛ばせるのかと言うと、常に速度計の表示を0km/hのまま運転していたから。
速度計(スピードメーター)って簡単に言えば車軸の回転数から速度を求めています。
速度計用の発電機で電気を発生させて速度計が動くのですが、速度計の故障時に備えてこの配線にはスイッチが付いていました。
※切り替えスイッチで先頭車の発電機か後部の車両の発電機を使うかを選べるもの
スイッチには昔ながらのトグルスイッチが使われていたのですが、うまい具合にスイッチを中立の位置で止めてしまうと電気が速度計には流れなくなるので針は0km/hを示したまま。
実際にどのくらいの速度を出していたのかは分かりませんが、とにかく猛烈なスピードを出していました。
車掌として最後部に乗務していましたが、その揺れ方はハンパなものではなかったです。
アナログな機械が多かったからこのようなことが簡単にできてしまいました。
ちなみにこの運転士、ブレーキが下手すぎて普通の人より距離が長かった。
制動がもう少し上手だったら、もっとゆっくりタバコが吸えていたのですが……
速度計にマイクをつなげて
速度計の切り替えスイッチの近くには、速度計のデータを取り出すためのテスト用の栓が付いていました。
というほどすごいものではないけど、この栓に別の速度計のプラグを差し込めば速度が計測できるようになっていました。
この栓は4ピンタイプのもので
こんな感じです。
車掌が使用するマイクも同じ4ピンタイプのものが使われていて、速度計のテスト用の栓にマイクをつなげる人がいました。
そしてマイクのスイッチを押すと、マイクが抵抗になって速度計へ流れる電流が下がり、速度系の針がぐっと下がるのです。
100㎞/hくらい出てるときにマイクのスイッチを押すと、速度計の針は60~70km/hくらいにまで落ちていた記憶があります。
ATSなども速度計の数値によって動作していますから、マイクのスイッチを押して速度計の針が下がれば本来より速い速度でも感知しない。
実速度は70キロだけどマイクのスイッチを入れて速度計の針を45キロに低下させれば、注意信号でもATSは動作しない。
やはりアナログな車両だからできたことですね。
今の車両はどう頑張っても速度計を0にしたり、マイクを繋いで速度計の針を動かすだなんてできないと思いますし、そもそも運転状況が全て記録されていますから、こんなことをすれば事故は起こさなくても乗務職場にはいられなくなります。
昔の運転士がおバカなだっただけという。。。