テレビや新聞などでも報道されているのでご存じの方も多いと思います。
2021年5月16日東京発新大阪行きの「ひかり633号」の運転士が、熱海から三島の間を走行中に腹痛のために運転席を離れてトイレへ行った。
この間約3分間。
動力車操縦者免許を持たない車掌を運転席に呼び寄せ、前方監視者に充てたようです。
JR東海の新幹線の規定がどのようになっているのかは知りませんが、報道されている内容からするとまずは運転指令に体調不良を訴えて、あとは運転指令の判断を仰ぐわけですね。
途中で新幹線を停車させてトイレへ行くか、動力車操縦者免許を持つ者に代わってもらうか。
新幹線の客室には各車両にトイレがありますから、駅間でもいいから止めてトイレへ行くということになるのかもしれないですね。
毎日新聞には
「プロとして腹痛を理由に停止させることは恥ずかしく、列車を遅らせたくなかった」
という運転士の話も出ています。
何と言っても運転指令へ一切報告せず、運転士が勝手な判断で走行中の運転席から離れたという点は、さすがにかばいようがない。
新幹線の運転士には前方注視の義務が無いにしても、やっぱり走っている最中に運転席を離れるとなるとちょっとまずいですからね。
昔のように運転士2人乗務の体制ならば問題は起きなかったけど今は運転士1人乗務ですからね。
私は通勤路線で運転士をしていたのですが、そりゃあ乗務中に腹痛に襲われたことなんて何度もあります。
スタフを見て、○○駅で優等列車の退避で2分50秒止まるからトイレへ走ろうとか、こりゃ終点まで無理そうだなと思えば、体を震わせて脂汗を流しながら我慢して終点の駅でトイレへ駈け込んだりもしました。
私が勤務していた会社でも乗務中に体調不良を生じたときは運転指令へ連絡し、場合によっては停車駅以外の駅に停車させてトイレへ駈け込んでも良い、その場合の列車の遅延は仕方がないということは会社側が明言していました。
でも運転中に列車を遅らせてまでトイレへ行くという判断は、正直なところ運転士としてはできないですね。
だから
「プロとして腹痛を理由に停止させることは恥ずかしく、列車を遅らせたくなかった」
という話は本当によくわかります。
※私はプロとしてという意識ではなく、個人的な理由で列車を遅らせるのはどうなのかなと思っていただけですけど
なので運転中に我慢できずにトイレが間にあわなかったという運転士もたくさんいますよ。
私はギリギリトイレに間にあっただけです。
運転士って結局は判断職なのですよ。
運転なんて少々下手でも本当は問題ない。
※私は文句言っていますけど
その場その場でいかに正しい判断が下せるか、そういう職業なんです。
今回の新幹線の運転士の判断は全面的に否定されるものであった。
極端な話、漏らしちゃうという判断をするほうが正しかったとも言えるわけで。
でも人間として、いい年をした大人として、漏らすということを選択できるのかというと、これもまた難しい。
それに腹痛の無線連絡を入れるというのが恥ずかしいという気持ちもあった。
※私も腹痛の無線を入れるのがイヤだったから、一度も入れたことがない
それで間違った判断である、運転中に運転席を離れるということを選択してしまったと。
そしてさすがに運転台に誰もいないというのはマズイと判断して車掌を呼び寄せた。
腹痛は急にきますからね。
たとえ水分を控えるとか、冷たいものをあまり口にしないなどの対策をとっていても。
私の乗務カバンには常に下痢止めが入っていたし、乗務中に口にしたこともありました。
それでも我慢できずに、体が震えて脂汗をポタポタ落としながら運転したこともあります。
だから今回の新幹線の運転士の気持ちはよくわかる、けど間違った判断をしてしまった。
列車の乗務員をしていると、急な体調不良(腹痛)との闘いは延々に続くのです。
追記
2021.5.21 JR東海の社長が国交大臣を訪れ「あってはならないことで申し訳なく思う」と陳謝した。
国交大臣は「ルールが守られなかった現象をどう捉えるかが大事だ」と苦言
そして面談終了後に社長は「しっかりと信頼いただけるよう安全について取り組んでいきたい」
社長としては国交大臣に睨まれないように早急に手を打ったということでしょう。
それ以上になぜ運転士が運転台を離れてトイレに行ったことが判明したのかが気になっていたのですが
三島駅通過が約1分遅れた理由を聞き取る過程で離席が発覚した
新幹線をはじめJR各社では1分程度の遅れであっても事情を詳しく聞き取り、場合によっては何らかのペナルティを与えるということを昔から耳にしていました。
「事情を詳しく聞き取り」とかなり柔らかい表現にしましたが、伝え聞いた話ではかなり厳しく取り調べに近いというか叱責というか、1分ほど遅れを生じさせたら始末書ものだとも・・・
それがイヤで運転士は運転指令に報告せずに席を離れたのかも・・・