人身事故を経験してしまった運転士
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人身事故を経験してしまった運転士

運転士

運転士と人身事故

「人身事故 運転士」で検索してみると、
「壮絶体験」とか「重度なうつ」といった、ちょっとショッキングな言葉が目に入ってきます。
たしかに運転士に過失は全くない人身事故が大半ですが、それでもひいた運転士は
「人をひいてしまった」
「殺してしまった」
という思いは当然持ちます。
同じ乗務区にいた先輩の中には
「罰せられない殺人やで」
と人身事故遭遇後に飲みに行った席で話したりもしていました。

 

検索で出てきた記事をいくつか読んでみましたが、ちょっと実態とはかけ離れているように感じたので、少しばかり書いていきたいと思います。

ちなみに私は車掌を約4年、運転士を約26年ほど経験しましたが、自分が担当している列車では人身事故は1度もありませんでした。
ただし離合列車(すれ違った列車)が人身事故を起こした瞬間を目の当たりにして、様々なものが私が担当する列車に飛んできて一部機器が故障・停止したとか。
1本前の列車で人身事故を起こしたものの、当時は7~8分で運転再開するのが常でしたので、事故発生したてのご遺体を見ることも何度もありました。

 

人身事故が起きた場合、被害者は生存しているものとして扱います。
医師ではありませんので、運転士が死亡を確認することはできませんから。
もちろん状態によっては、即死だろうとの予測のもとに行動することはあります。
死亡しているものとして扱う場合、遺体を線路外へ移動させる必要があります。
会社によって考え方が違うので一概には言えませんが、私が勤務していた会社では運転士と車掌の2名で取り扱うことが多かったです。
ただし駅構内などの場合には駅係員にほぼおまかせすることもあります。

 

 

人身事故の処理も仕事

ある記事に
一度でも人身事故に当たると、二度と操縦したくないと他の部署へ異動すると書かれていたのですが
私が約30年間の乗務員生活中に、人身事故が原因で運転士の職を外してもらった人って1~2名でした。
だって運転士をしていれば人身事故はつきものだと覚悟して乗務しているのですから、これが原因で異動する人は実際にはごく少数ですよ。

それと、人身事故に当たった運転士がその遺族の方と対面することはありません。
遺族のもとへ行くのは警察と乗務区の助役以上の職種の係員です。
稀にひいた運転士を出せって言ってくる遺族もいますが、ほとんどの遺族の方はご迷惑をおかけしましたとこちらへ声をかけてきます。

 

所属していた乗務区の話ですが、昔は人身事故に当たった運転士はその日の乗務は免除されていましたが、私が運転士生活の晩年頃になると免除なんてなくなっていました。
私が勤務していた会社では、人身事故後の運転士をどのようにするかといった決まりはなく、慣例で免除としていたのですが、乗務区にちょっと難儀な区長が就任して以降は乗務させられていました。
ただ事情聴取があったり、最近は抑止時間が長くなる傾向にあるので事故当日の乗務はほんの少しでしたが。
さすがにこのやり方はちょっとマズいだろうと思うのですが、そろそろその難儀な区長も異動したハズだし取り扱いは変わっているかな(願望)

人身事故のあとは数日休暇がもらえるとか、会社からお見舞金のような形で支給される会社もあるかもですが、私が勤務していた会社では休暇ももらえないしお見舞金ももらえません。
人身事故の処理も運転士の仕事の一つだからといった考えからです。

だって運転士の見習中に教習所の訓練で人身事故に遭遇した時というのがあって
例えば腹部が完全に切断されているときは
「腹部断裂!即死!」
って指差喚呼しながら処置を行うなんて、今考えたら「なんじゃその訓練?」って思うようなこともしていましたよ。
※私が勤務していた会社だけかも・・・

でも人身事故のあとしばらくは焼肉を見ると気持ち悪くなるとか、運転中にその時のことを思い出してしまうことももちろんあります。
しかし5件も6件も人身事故の経験がある運転士になると、多少は興奮状態になるもののあくまで作業と割り切って動いています。

 

人身事故を意識する場面はいくらでも

私のように人身事故を経験したことがない運転士は他にももちろんいます。
でも入駅していったときに白線(いまは点字ブロックかな)より内側にいる青白くてフラフラしている旅客を見たときや、踏切に急に入ってきて怖くなってすぐに出ていく人などたくさんいるわけで、言ってみれば人身事故未遂のたびに
「やっちゃったかも!」
って思うなど、人身事故を意識する場面は運転士をしていればいくらでもあります。

この人身事故を意識してしまう場面に何度も遭遇して運転士の仕事が嫌になり異動する人はいますが、実際に人身事故にあたって異動する運転士って意外と少ないですよ。
毎日のように“ドキッ!”としながら運転しているので、大半の運転士は“その時”の心構えはきちんとできています。

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