今回書く記事はあくまで私が在籍していた会社の話です。
他社の状況まで私は存じ上げませんので
「そんなことはない!」とか「○○しているはずだ!」などと言われても、返答のしようがありませんのでその点はご承知おきください。
駅の分社化(子会社化)
鉄道事業者が駅業務を直営から委託に切り替える時に、新たに駅業務専門の子会社を立ち上げるという方法をよく取ります。
今でもこの方法で駅業務を委託している会社は多くあります。
私が在籍していた鉄道事業者もこの方法を採用し、全駅のすべての駅員をこの子会社へと転籍させました。
ただし監督職(助役など)などは転籍ではなく出向という形を取り、給与などの労働条件は保障。
転籍となったヒラの駅員なども労働条件はそれまでと同じとされましたが、あまり良い話は聞きませんでした。
急に配置人数が減らされたりとか、残業の計算方法がシビアになったとか。
子会社に転籍となったことで、例えば車や家のローンを組む時に審査が厳しくなって通らないケースが続出したとか。
新たに運輸部門に採用される新入社員は全員がこの子会社に配属されます。
労働条件は子会社で定められたもので、親会社とはまったく別の内容となっていました。
この駅業務のために分社化された会社の人事担当は、私と入社が同期だった人物。
この人が労働条件を作っていったのですが、親会社側から指示された内容は
「労働基準法などに反しない範囲で、とにかくすべての面で最低ラインで統一しろ」
真面目というか堅物というか融通が利かないというか、とにかく私はあまり接したくはない人だったのですが、その彼は指示通りにすべてを労基法を破らない最低ラインで労働条件を作り上げた。
※拙著にも登場する人物です……
本社の食堂のほか駅・乗務区などに配送される弁当申し込みに利用される食券の価格まで、親会社と子会社とでは差をつけて高額にする始末。
親会社から転籍となったヒラの駅員は元からの条件のままなので食券も安いまま、一緒に働く新しく入った社員は同じ食券なのに高いという、そんな〝差別〟までありました。
1年前に親会社に入って子会社へ転籍した人と、その1年後に新入社員として子会社へ入社した人の差はえげつなかった。
基本給も手当もボーナスもそのすべてがまったく違っていましたから。
親会社勤務・子会社へ転籍・子会社へ入社という3パターンの労働条件が存在していました。
契約社員
分社化された子会社で2年以上駅勤務を行い、車掌登用試験に無事合格すれば親会社に移って車掌になります。
ところが私がいた会社はえぐかった。
子会社から親会社へ移るのですが、正社員ではなく親会社の契約社員として車掌をさせられたのです。
私が駅勤務から車掌へと〝昇格〟した時には、基本給はおよそ1万5千円ほど上がりました。
※1983年のことです
ところが子会社の駅勤務から契約社員の車掌となった人たちは、基本給は1000円ほど上がっただけと言っていました。
同じ車掌をしていても、親会社所属の多くの車掌と、契約社員として乗務する車掌とでは信じられないほどの給与格差がありました。
それに契約社員は最長5年までで、5年目以降も働き続けるには無期契約に変更しなければいけません(労働契約法 第十八条)
そこで私が在籍していた会社はえぐいことを思いつきました。
車掌をして5年を超えないうちに運転士にならなければ契約を打ち切る。
運転士登用試験は車掌経験3年以上なければ受験できません、そして登用試験は年に一回。
3年目、4年目、5年目で一回ずつ受験できるが合格しなければ契約の打ち切り、つまりは職場を去ることになります。
運転士登用試験の合否発表があるたびに車掌が職場から消えていきました。
こんな制度は5~6年で無くなったと思いますが、その間に職場を去った若い車掌は数十人に上りました。
そのうちの何人かは同業他社に移ったようですが、新卒ではないし年齢もかさんでいることからまた契約社員に。
それでも口をそろえて
「○○にいた時よりものすごく気は楽ですよ」
でも契約社員の車掌から運転士に登用されてもかなり驚くことが。
なんと運転士になると、契約社員の車掌時代より基本給が下がるのです。
理由は新入社員だから。
運転士とはいえ、親会社に入社したての新入社員だから最も低い基本給が適用されていたのです。
契約社員の制度はなくなったが
いびつな制度によって、もともといる私のような社員と新しく入ってきた社員とでは格差があまりにもひどく、基本給や手当などを含む労働条件や食券の価格まですべてが統一されました。
同じように働いているのに、もともと親会社の所属の運転士だという理由だけで年収○○○万円、かたや子会社経由や契約社員上がりという理由だけで同じ運転士なのに1/3の年収しかないというのは、それだけでも社員間の感情に良くない空気がどうしたって流れます。
そこで労働条件を大幅に改定し同じ労働条件で働くようになったのですが、新しい労働条件をそのまま私のような古い人間に当てはめると、今度は私らが大幅な減収に見舞われます。
そこで基本給を細分化して○○給、○○給というのがいくつも登場することに。
私などはすべてを足すと従来と同じなので特に影響はありません。
そして若い人たちはこの○○給を極力低くすることで、給料の格差はそのままとなっています。
※今は変わっていると願いますが……
ただし一日当たりの乗務量・乗務時間はどんどん増加し、乗務員の定数はどんどん切り下げられました。
私などはまだ給与は確保できていたのでマシなのですが、今の若い乗務員の人たちは大変だと思います。
昔は運転士になって結婚すれば奥さんは専業主婦がデフォでしたが今は絶対に無理で、夫婦そろって運転士だが二人の収入を足した金額より私一人の収入の方がはるかに高かった。
在職中に何度か若い運転士に給与明細を見せてほしいと言われ見せ合ったりしたのですが、
「私の乗務手当より20倍ほど多い」
「○○給や○○給の額がハンパなく高額だ!」
なんて驚かれたりしました。
ボーナスの明細を見せた時には、
「これって1回のボーナスですか?1年間のトータルではないですよね?」
と言われたことも。
事業者側は低賃金に抑え込めることに成功したわけです。
でもこの話は私が在籍していた会社だけではなく、手法や方法は違えど全国の鉄道やバスの職場でも低賃金化が行われていきました。
これだけ低賃金で労働時間は長くて不規則、それでもって責任だけ負わされるのですから人が集まるわけがない。
まだ都市部で大手の鉄道会社だから今のところは人も集まるのかもしれませんが、やがては人手不足に陥ると思います。
実際のところ地方の鉄道は運転士不足が顕著ですし、バスに至っては都市部でも運転手がまったく足りない状況に陥っています。
金が稼げるから人が集まった運輸業界なのに、その金を出し渋って一時期的な収益向上が一転、今では路線や会社の存亡が危ぶまれているのです。
もう今の流れは何をしても止まりません。
そういう道を会社が選んできたのですから。