先日もこの件を記事にしています。
社内の処分は避けられないだろうと思っていましたが、JR東海による検証結果を踏まえたうえで国による行政処分も検討すると国交相が発言したようです。
新幹線運転士が席離れトイレ、国交相が運転士への行政処分を検討
また別の新聞には
- 体調の優れない人を乗務させない運行管理の徹底
- 簡易トイレの運転席への配備
- 運転士資格のある車掌がいる列車を増やす
といった提案を国交相がしたとの記事も。
前回の記事にも書きましたが、この新幹線の運転士が行った行為
- 運転指令へ体調不良(腹痛)の連絡を行わなかった
- 無断で走行中の新幹線の運転席から離れた
- 動免を持たない車掌を前方監視者として助手席に座らせていた
1番目は必ず運転指令に連絡をしなきゃいけないものではありません。
腹痛を我慢できるのならば報告する必要がありません。
問題は2番目ですね。
走行中の列車なのに運転士が運転席からいなくなるというのは、さすがにどうあがいても許される行為ではない。
もしも運転席を離れるのならば1番目の運転指令への報告と、運転指令から指示・許可を得たうえでないとさすがにね。
今回の事案は「ひかり633号」の熱海ー三島間で起きたもので、その手前の小田原駅に停車中にトイレへ行ければよかったのですけどね。
運転指令へ
「小田原駅でトイレへ行くので発車が遅れる」
がもっともスムースだったのにと。
ただ経験上(私は新幹線の運転士ではないけど)停車駅ではお腹の痛みって少し緩和するんですよね。
そして出発直後にグルグルってお腹が鳴りだして我慢できなくなるわけで。
今回のケースだと運転指令の許可をもらって熱海駅か三島駅(通過線)に停車させて車内のトイレへ行くというのが最善だったということになります。
3番目の免許を持たない車掌を座らせていたというのは、さすがに無人になるのはまずいと思ったうえで判断したのでしょう。
気持ちは分かるけど車掌ができることって、運転指令から無線で呼びかけられたときに応答することくらいでほかには何もないです。
だって免許を持っていない車掌なのですから。
しかし国交相の思い付きのような発言もどうかと思います。
「体調の優れない人を乗務させない運行管理の徹底」
→腹痛なんて急に襲い掛かってくるもので、乗務区での点呼の時に分かるようなものではない。
急な腹痛になった経験がないのか、腹痛に襲われてもすぐにトイレへ駈け込める仕事しかしたことがないのか。
「簡易トイレの運転席への配備」
→昔よく冗談でこのようなことを乗務員同士で言っていましたよ、運転席のシートをめくると“おまる”になってたらいいのにって。
でも使用後に乗務を引き継ぐのはイヤだななんて本当に言ってましたよ。
「運転士資格のある車掌がいる列車を増やす」
→元々新幹線開通当時は運転士2名と助士1名での担当だったものをどんどん減らしていき、JRになってから運転士1名体制にした。
車掌も平成28年にそれまで3名乗務だったものを2名に減らし、車掌の資格を持たないパーサーに異常時対応(避難誘導・脱出用のハシゴの取り付け・長時間抑止や停電時の対応など)をさせるようになったのに、それをいまさら免許を持つ車掌が乗務する列車を増やすって。
国交相のこれらの発言って、居酒屋なんかで酔っ払ってしゃべってるド素人のたわごとレベルなので呆れますよ。
私も腹痛による運転指令への報告はしたことがありません。
私の場合は恥ずかしいということと、脂汗を流してでも我慢することを選んだ結果です。
今回の新幹線の運転士も私と同じような気持ちも少しはあったのかもしれませんが、それ以上に遅延に対する恐怖心が大きかったのではないかな。
前回も少し書きましたが、新幹線って1分の遅延で始末書を書かされるなんて話がよく伝わってきていました。
実際に書かされるのかは分かりませんが、今回運転士が離席してトイレへ行ったことがバレたのも、三島駅の通過が1分遅れていたことによる事情聴取によるものです。
1分遅延した理由を会社側は何があっても聞くなとは言いませんが、遅延させることへの恐怖心を抱かせるような指導が根底にあって今回のようなことになったのではないかな。
国鉄からJRに変わってサービス面は劇的に向上しました。
でもその反面、駅勤務や乗務員に対する会社側の要求は熾烈を極めているような気がします。
機械化によって安全性は向上しているとして人員の配置を極端に減らしています。
そして遅延に対する会社の過剰な反応は、福知山線脱線事故以降も継続しています。
JR西では2分の遅延に対して2分間の休暇届を出させて、2分の賃金カットをした事例について提訴も行われています。
遅延させたことでのちに迫ってくる恐怖が分かりきっているから、運転席を離れてトイレへ行くという間違った判断をしたのではないかな。
前回の記事で
私が勤務していた会社でも乗務中に体調不良を生じたときは運転指令へ連絡し、場合によっては停車駅以外の駅に停車させてトイレへ駈け込んでも良い、その場合の列車の遅延は仕方がないということは会社側が明言していました。
ということを書きました。
実際に各駅停車を担当している運転士が、運転指令に断って駅のトイレへ行き3分ほど遅延させたことがありました。
乗務区の助役たちはその運転士に体調のことを聞く程度だったのですが、本社から乗務区には遅延した理由を報告書に書いて提出するほか、途中で運転ができなくなるような運転士は異動させると迫ってきたことがありました。
報告書を書くのは当然ですけど(この時の報告書は運転士には書かさず助役が書きました)、乗務中に突然腹痛に襲われたら異動なんてことになると誰も車掌や運転士なんてやりたがりませんよ。
私が助役をしているときで数日間は本社と言い争いをしましたが、当該運転士にはそのことを一切伝えませんでした。
その方は今でも運転士をしていると思います。
今回の新幹線の運転士は、理由のある遅延であっても決して許してくれる会社ではないと感じていたのではないかな。
そんな気がします。