JR西日本の大阪環状線の天満駅で30日午前5時ごろ、始発の運転士が天満駅から約70mほど離れた線路付近に倒れている男性を見つけた。
運転士が男性の救護を行ったが間もなく死亡が確認されたが、この影響で7時前まで運転を休止した。
この男性は30日午前0時10分ごろに列車と接触したことがドライブレコーダーの映像から確認されたが、当該運転士は事故の認識がないまま運転。
この列車の後に普通列車1本と回送列車1本が同箇所を通過しているが、約5時間後の始発列車まで気付かれなかった。
相変わらずYahoo!ニュースのコメント欄には様々なことが書かれていますが、30年以上車掌や運転士をした私の意見や知見をもとに書いていきます。
まず報道を見ると“線路”というワードが出てきますが、一般的な感覚として「線路=レール」として捉えると思います。
この場合の線路とは一般的な感覚で言う線路ではなく、鉄道が走行する空間すべてと認識してください。
例えば走行用の電気が流れている架線も線路です。
レールはもちろん路盤やバラスト(砕石)に枕木や犬走りなど、これらの部分も含めて軌道(軌道内)であり線路です。
鉄道関係者は線路という通常使う言葉で発信するわけですが、マスコミ側は「線路=レール」として伝えるでしょうし、記事の受け手側も「線路=レール」として捉えるので、どうしても齟齬が生まれると思いますのでまず最初に書いておきます。
今回の事故で分からない部分は、なぜ軌道内にこの男性がいたのかということで、この部分は何も発信されていません。
酔っぱらっていて落下したのか、スマホを見ながらホーム上を歩いていて落下したのか、気分が悪くなるなどして落下したのか、酔っていて勝手に軌道内へ降りていったのか。
いずれにせよ、レール上に横たわるなどしていたのではなく、車両の接触限界内のどこかにいたということでしょう。
線路付近に倒れていたと書かれているのでバラスト上でしょうか。
レール上に横たわるなどしておれば運転士の視界に入るのですが、手とか足だけが乗っている状態だと直前になるまで気付かないことはあります。
特に駅構内の場合、ホームの影に隠れるので見えないことも多いのが実情ですし。
そして接触した箇所が車両の床下機器の場合、運転士にまでその振動や衝動は伝わりにくいと思います。
制動中だったり力行中だとブレーキの音やモーターの音にかき消されるので、特に分かりにくいと思います。
こういった悪条件が重なったことで、当該運転士は気付かずに出発していったと思います。
事故車の運転士をはじめ後続の普通列車と回送列車の運転士が男性の存在に気付かなかったのは、ひょっとすると前照灯をハイビームにしていたことも原因かもしれません。
曲線部で前照灯をハイビームにしていると、軌道以外の場所が照らされて肝心の軌道部分は暗いということは分かりますよね。
天満駅付近は緩い曲線状のようですから、ハイビームが原因で外回りの列車からは男性の存在が分からなかったのかもしれません。
朝になって始発列車の運転士が男性を発見していますが、この列車は内回りだったそうですから見つけやすかったのかもしれません。
それに始発の運転士は特に線路の状態を確認しながら運転しますから、より発見しやすい状態だったのかなと思います。
私がいた会社では、昔は始発列車には必ず助役以上の監督者を添乗させて、運転士とともに2名以上の目で異常がないかを監視しているほどでしたから。
例えば自殺目的で列車に飛び込む人は、列車の正面めがけてくることが大半です。
なので運転士は嫌でも気付きます。
ところが今回のような事故の場合には列車の正面部分以外での接触となるので、運転士からは見えないうえに走行状況によっては音も振動も伝わらずに気付かないことがあります。
私が在籍していた乗務区内でも、事故に遭遇した列車の運転士は気付かず、後続の列車などの運転士が発見したという事例はいくつかあります。
いずれも車両の先頭部分ではなくやや後方の床下機器に接触したケースでした。
今回の天満駅での事故が不意に転落してしまって起こったものだとすれば、ホーム稼働柵(ホームドア)の設置で防げたかもしれません。
でも不意に落下したものではなく酔ったうえなどで故意に軌道内に侵入したとしたら、ホーム稼働柵(ホームドア)があっても防げなかったかもしれないし、ホーム稼働柵(ホームドア)によって軌道内に影の部分が増えるから余計に発見しづらくなっていたかも、と思ってみたり。
もう運転士ではないのですが、それでもいろいろと考えさせられる事故だなと思います。