私がいた会社の基本的なスタンスは〝上位職は下位職を兼ねる〟という考え方があること。
上位とか下位という分け方は私は嫌いなのですが、駅員→車掌→運転士→助役という基本的な進み方から、先に就く職種を下位、後になって就く職種を上位として考えており、上位の職種の人は下位の職種の業務をすることは可能で、例えば助役の職種に就く人が出勤してきていきなり
「今日は運転士の欠員が埋まっていないから、運転士をしてください」
という運用もできなくはないのです。
※駅員・車掌・運転士というのはざっくりとした分け方で、実際にはそれぞれの職種にもランクがあります。
助役になっても動力車操縦者免許は保有したままですから、電車を運転すること自体に問題はありません。
ただし普段は添乗を行うなど電車に乗ってはいますが、実際にハンドルを握るという機会はほぼありません。
そこで助役の中には添乗業務の際に運転士にお願いして、運転させてもらったりするのです。
ダイヤが乱れてどうにもならない時をはじめ、事故や災害等で不通区間が出た時などは、出勤している乗務員だけでは列車を運行することができないこともあり、そういう場合には助役などの監督職が乗務することがあるためです。
運転士時代、仲の良い助役が添乗してくるとハンドルを持たせてほしいと言ってくることが多く、よく代わって助役が運転して私が横で添乗ということもしました。
たいていはたまたまを装っているだけで、この運転士だったら運転を代わってもらえそうという計算のもとに来ているのですけど。
それで助役が運転する横に立って前方を見ていると、座っている時とでは惰力の感じ方が違っていたり、距離と制動力が釣り合っているのかなど、運転する上で必要な細かい部分が全然分からなかったりします。
実際に私自身も助役となって添乗することが多かったのですが、たまに運転を代わってもらうと、添乗に慣れてしまっていてハンドルを握った時に違和感を感じてしまい、運転士現役時代のようなきれいな制動ができなくなるのです。
もちろん停止目標に正確に停車させることはできるのですけど、ブレーキを緩めるタイミングがちょっと狂っていて最後はトロトロと転がしていく感じになることが多かったです。
階段制動で止めるのですが、ブレーキを緩めるのって怖いと感じてしまうのです。
あまり早く緩めてしまい行き過ぎたらと、運転士現役時代には考えもしなかったことを考えてしまうのです。
助役なんて6か月ほどしかしていないから、ハンドルを握っていない期間はごくわずかなのですけど、それでも微妙な感覚は失っているのですよ。
しかしお客さんが不審に思うのかは知りませんが、添乗している助役が途中駅で運転士と代わってハンドルを握るとクレームが来ることがありました。
「横に乗っている人が途中で運転を代わったのだが、無資格の人に運転させたのではないか?」
「途中で運転を代わる様子を見たが、あれは会社として認めている行為なのか?」
そのために途中の駅から運転を代わるようなことはしないようにとのお達しも出たのですが、でも助役にすれば急に運転しろと命令されることもあるので、そういう時に備えて運転の勘を鈍らせないように準備することも必要ですしね。
昔聞いた話では、JR西では免許を持ちながら日頃運転することがない人(助役や輸送指令の指令員など)は、何か月かに1回程度はハンドル訓練として運転する機会を作っているとか。
私がいた会社でもきちんと制度としてハンドル訓練を設ければいいのですけどね。