過走(オーバーラン)対策をしても根本的な原因が取り除かれないから
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過走(オーバーラン)対策をしても根本的な原因が取り除かれないから

Yahoo!ニュースを見ていると月に数回は過走(オーバーラン)に関する記事が掲載されています。

今は鉄道会社がすぐに公表するので頻繁に起きているように見えますが、昔はこんな少なくはありませんでした。

だって3駅連続で過走したという運転士もいましたし、A駅の下りで過走して折り返してA駅の上りで過走したなんて運転士もいたし。

それに会社も過走に対しては特に咎めることもなかったし。

ただ昔の過走は制動距離をあまりにも詰めすぎて止まりきれなかったということが大半で、この場合は停止目標から100m以上行き過ぎることはない。

通過列車と勘違いしたとか居眠りの場合100m程度の過走で収まることは稀で、完全に駅を行き過ぎることもありましたが、このケースではさすがに会社からはかなり厳しく問い詰められることになります。

 

会社もいろいろと過走に対する対策は取ってきましたよ。

試験的ではあったけど、停車駅の手前に来ると線路に沿って設置されていたスピーカーから発砲音に似た音を出して、運転士に停車駅であることを気付かせる装置なんて物もありました。

運転士が窓を閉めていたら聞こえづらいし、周辺の民家からは苦情があって試験段階でやめたけど。

停車駅手前になると車掌から運転士に合図を送るということも試験的にやってみたけど、車掌の側が勘違いしていることもあったりして、これも正式導入はされなかった。

運転台に普通とか快速などと書かれたカードを掲出しておくという方法もあったけど、眠気も無く意識がはっきりしておればそのカードを見るのだけど、眠気に襲われていたり目は開いているけど頭が働いていない時はそのカードに目をやることもなく、思ったほどの効果がなかった。

 

停車なのか通過なのかを示す表示灯を駅の手前に設置して、一定の速度以上(45キロとか65キロとか)が出ていると自動的にブレーキが掛かるとか、会社によってはパターン式のATSを導入して過走を防ぐ対策をするとかいろいろやってはいます。

ある地点で一定速度以下でないとブレーキが掛かる仕組みでも、パターン式のATSを導入しても残念ながら完全に過走を防ぐことはできていません。

これらのATSと連動した装置の場合、誤動作がどうしても発生します。

それこそ停車駅なのに通過しようとしてこれらのATSが動作するよりも、誤動作で勝手にブレーキが掛かる回数のほうが圧倒的に多い。

本当は過走を防ぐために正規に作動しているのに「また誤動作している」と勘違いして、ブレーキを解除して無理やりノッチを入れて過走したというケースがあったと、他社の友人に聞いたこともあります。

 

ガムを噛んで頭を働かせるようにすればかなり過走も減るとは思いますが、

「運転士がガムを噛みながら運転している」

といったクレームがすぐに来るので、これもなかなか実行しにくい。

ガムを噛むと集中力が増し、眠気もある程度は抑えられるのですが。

すると会社としては、大きな声で喚呼をするとか、指差は指先まで力を入れてとか、各駅の手前では複数回確認するようにとか、ほぼ精神論に近いような指導にならざるを得なくなってきたり。

 

昔より一日当たりの乗務量が飛躍的に増やされて、24時間の泊まり勤務で仮眠時間は帳簿上は6時間あるけど、実質的には4時間もない。

会社によっては泊まり勤務に中休のシフトを導入していて、泊り明けでラッシュ帯を少し運転していったん中休みで、夕方再び出社して夕ラッシュを担当してようやく勤務終了なんて組み方をしている会社もある。

実質3時間ほどの仮眠時間なのに、泊り明けでそのまま帰れずに残業で夕方まで残ったり(残業時間が8時間とか9時間とか)、残業時間が付かない研修とか業務研究会もあるし。

乗務員では少ないけど、駅勤務や乗務区の助役だと泊り明けでそのまま24時間の泊り勤務を残業で残り、残業の泊り明けで自分の本来の仕業(シフト)を行う、72時間の連続勤務なんてことも珍しくはない。

昔は1ヶ月の残業や休日出勤の上限を超えると、残業時間は翌月に繰り越しなんてことが普通に行われていて、中には繰り越した残業時間が3000時間なんて人がごろごろいて、

「今月からは残業時間は0にしてください、もう定年退職を迎えても残業時間が消化しきれません」

 

根本的に過走問題を解決するには、仮眠時間の確保が重要だし、そのためには一日当たりの乗務量を減らすしかなく、そうなると乗務員の数を増やすしかない。

でも現実には乗務員の数を減らして同様に仕業数もかなり減っていて、一日当たりの乗務量は増加傾向にあるし、休憩時間も15分とか20分という仕業も増えてきた。

その反面朝のラッシュ時間が終わった直後の休憩だけ1時間半なんて休憩があって、泊り明けなのに完全に集中力を欠いて眠気が猛烈に襲ってくる状態で2時間ほど乗務しなければいけなかったり。

またワンマン運転を導入したからといって一日当たりの乗務量が減らされることはなく、昔車掌がいたころよりも乗務量が増加しているワンマンの仕業ばかりになっているし。

 

こんな状態だと目は開いているけど頭がまったく回転しない状態というか、目は開いているけど寝ている状態に陥って、少しブレーキを掛けるタイミングが遅くなって数十メートルの過走というケースが増えていく。

ヤフコメなんかを見ているといろいろと文句を並べる人もいるようですが、ならば朝から高速道路を2時間ほど運転し、SAやPAで20分だけ休憩して再び2時間高速道路を運転するということを繰り返して夜12時まで続けて、翌朝は5時前から高速道路を2時間ほど運転し、SAやPAで1時間半休憩してガラガラになった高速道路を太陽光が差し込んでくる中、再び2時間運転するということをしてみてください。

もちろんガムなどを噛んではダメだし、音楽やラジオを聞くのもダメ。

列車の乗務員ってこんな毎日を送っているのです。

 

これまでにも何度か書いてきましたが、今の乗務員のシフトと昔とは比べ物にならないほどの作業の増加、そして社員を守ることよりもクレーム対策を優先する会社によって、今の乗務員は疲弊している。

でも昔よりはるかに過走を含むミスの発生件数自体は目に見えて減少しています。

しかし一度事故になれば昔では考えられないほど大きな事故に繋がる、そんな危険性もはらんでいると思います。

ヤフコメを見ていると、多くの方は過走した運転士に対して同情的ですが、中には注目されたいのか現実をまったく知らいのか好き勝手書いている人もいて、車掌や運転士を30年ほど経験した私としてはどうしても感情的な文章になってしまいます、ごめんなさい。

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