新しい車両は同じ速度で走っても揺れが少なく、空調だって一般的には快適な車内空間が維持できるように設計されています。
100キロ以上の速度で走行しても、やはり新しい車両は揺れが少ない。
そしてモーター音が車内でそれほど響きはしないので、おそらく車内にいるお客さんはそれほど速度を出していると感じないのではないでしょうか。
金属ばね台車の車両で特に古い車両の場合、80キロを超えると車体がはねまくります。
運転していても運転席から飛び上がりそうになるほど下から突かれますしね。
そして通勤で毎日利用している人からは苦情をもらうのですよ。
「〇駅を〇分に出るこの電車は毎朝古い電車が来るけど、何とかならないのか」
車掌をしているとたまに乗務中にこのように言われることがあるし、運転士をしていると終点に着いたタイミングで言われることも多かったです。
車両運用に関しては乗務員や乗務区に権限はなく、車両部が決定していることなので苦情をもらってもどうしようもないけど、とりあえずは乗務区の監督職には伝えてはいました。
何の解決にもなりませんが。
毎日利用する方からは、やはり新しい車両に置き換えると喜ばれるのですよ。
運転士になってから車掌業務をしている時に、
「これ新車?静かだし揺れないし乗り心地ががすごく良いね」
と駅で降りた方がわざわざ伝えにきましたから。
ということで一般の利用者の多くは、古い車両の引退を喜ぶ方のほうが多かった。
古い車両の引退を憂うのはやはり鉄道ファンの方たちですね。
最近は車両の引退を予告して、当該車両にヘッドマークを付けたり記念グッズを発売するなど、本社はお金儲けに余念がないけど、やっぱり鉄道好きな方は乗車に来られて撮影をし、そしてグッズを購入していく方が多いです。
そういえば最近は鉄道関係のグッズを通信販売する鉄道会社も多いですが、運転士時代によく駅の係員から
「いつも購入してくれる人のリストを作っているのだけど、買い方がすごいよ本当に。販売予定のダイレクトメールを送っても良いかもしれない」
なんて嬉しそうに語っていましたね。
乗務員の立場からすると、喜び半分で悲しみ半分かな。
古い車両の何が怖いって、やっぱり故障ですね。
いくら点検しているといってもあちこちにガタがきていることは隠せませんから、軽微な故障はもちろんのこと、オーバーロードなどモーターや制御器といった重要部の故障はやっぱり怖い。
そういう車両が引退するのは正直喜びでした。
でも長年運転してきた車両ですから、クセが強くても運転するのが楽しいと感じることが多い。
特に最近の車両は優等生タイプ(実際にはそうでもないけど)だけど、古い車両はわがままというか頑固なじいさんというタイプが多かった。
上手く乗らせてあげたら思い通りに走って止まるけど、へそを曲げたらまともに止まってくれない。
支線で比較的低速で走らせていると特に何も思わないけど、本線でそこそこ飛ばすと古い頑固じいさんは意外と老体にムチ打ちながら悲鳴のようなモーター音を響かせて走ってくれます。
古い車両って車両の基本として運転士の教科書に載っていました。
今の電車とは違って構造自体は単純で、車両の構造を学ぶには古い車両のほうが適していますし、運転の基礎もやはり古い車両からのほうが学ぶことが多かった。
そういった面で愛着があるから、古い車両の引退は悲しいというか寂しさもありました。