表面化しないだけで意外と多かった誤停車と誤開扉
運転士の勘違いによって快速電車が通過駅に停車してしまい、車掌もドアを開けてしまった。
私が配属されていた乗務区でも何度となく起きた運転事故ですが、X(Twitter)や当ブログにも書いたことがあるように、運転事故当時者の運転士と車掌が乗務区に戻ってくるなり口論をはじめ、
運「なんでドアを開けるんや!開けんかったら何も起こってないねんぞ!」
車「アホか!お前が止めんかったら俺はドアを開けてへんのや!お前が悪いんじゃ!」
運「車掌は停車駅かどうかを確認してドアを開けるのが手順やろ!お前が悪いんじゃ!」
車「何を言うてるねん!運転士かてスタフ見て通過か止まるのかを確認するんやろ、お前が確認もせんと止めるのが悪いんじゃ!」
こんなベテランの運転士と車掌の罵りあいを、必死で笑いをこらえながら見た思い出がありますが、このバトルを行った二人は数年後(十数年後だったかな?)に同じことを再び行い、その列車無線を乗務区の休憩所で聞いた私は大笑いしたのですが、期待していたバトルは行うことができませんでした。
もう時代が変わっていて二人とも事情聴取という名の軟禁状態におかれ、日勤教育を受けていましたから。
昔は運転士が誤停車した上に車掌が誤開扉する運転事故が起きても公表されることもなかったし、処分されることもなかった。
私はミスの度合いは同じだと思っていたのですが、会社的には誤通過に比べて誤停車はミスの度合いが低く、利用者への影響は小さいと捉えられていたようです。
運転士と車掌の責任割合
私はこの種の運転事故の場合、責任割合は運転士と車掌で同程度だと考えていますが、あくまで私がいた会社というか乗務区の場合ですが、どちらかと言えば運転士の責任のほうが重いという判断をしていました。
本来通過駅である駅に誤って止めたのは運転士であり、運転士が止めなければ車掌はドアを開けていない。だから運転士の責任が重い…
こんな感じでした。
でもXでは車掌が悪いという意見が多かったです。
- 運転停車で止まることもある
- 踏切支障やホーム非常通報などのほか、前方の信号が赤で通過駅に停車することもある
- 通過駅であることを確認せず無意識にドアを開けている
言われていることは本当にそうだと思うし、
「止まれば反射的にドアを開けるって、あいつはパブロフの犬か!」
って車掌を揶揄っていた乗務員も職場にいましたしね。
車掌が停車駅か通過駅かを確認もせずにドアを開けている点については、明らかに車掌の怠慢と言えますよね。
ただ運転士もスタフ(運転時刻表)の確認ができていない(漠然と見ただけとか、見た目には指差ができているけど格好だけとか)から通過駅に止めているわけですから、私はやはり運転士も車掌も責任割合は同程度だと考えます。
運転停車のことを持ち出された方は鉄道のことをよくご存じなのだろうと思います。
一般人には馴染みのない言葉ですから。
単線での行き違いとか乗務員の交替などで、客扱いをせずに駅に停車することを運転停車と呼びますが、車掌にすれば駅に止まってもドアを開けない特殊な取り扱いの一つですし、意識して乗務しているので間違えて開扉することはまれだと思います。
回送で途中の駅で停車する列車は何度も担当しましたが、ドアを開けてはいけないという意識が働くし、間違っていないか何度かはスタフを確認するので誤開扉の可能性はかなり低いと思います。(あくまで私的には間違えることはないと思っています)
開けたら大変なので、私は客扱いのない駅に停車する時はホームの無い側に立つようにして防止していました。
踏切の障害物検知装置やホームの非常通報装置の動作などのほか人身事故など異常時ですが、この場合は通常の駅停車とは異なるブレーキ操作となることが普通で(非常制動や全制動など)、車掌も通常とは違うと認識できます。
なのでこのケースでもドアを開けてしまう車掌は皆無だと思われます。
何らかの理由で前方の信号機がR(赤)で通過列車なのに駅に停車する場合ですが、これも普段とは違いかなりゆっくり(制動距離をかなり長くとって)なブレーキ操作となりますし、時にはずっと先行列車を追いかけてゆっくり走行しますから、このケースでも車掌は停車駅か通過駅なのかを認識できるので、通過駅に止まっても誤開扉することはほぼないと思います。
※ただ場内待ちなどでホームの無い場所に止まっているのにドアを開けてしまう事象も、とある会社の同じ場所で連続して起きたこともありますから、絶対にないとまでは言えません
誤停車を防止するバックアップ装置はない
私が運転士や助役になって誤停車後に誤開扉をした車掌と話をした中でよく耳にしたのは、
「〇駅に停車する時の運転そのものだったから、つられて開けてしまった」
というものが大半でした。
そしてそのほとんどは、優等列車が停車する駅の次の駅で起きています。
誤停車が多いB駅、その一つ手前のA駅は優等列車が停車する駅。
A駅を出発させた運転士は、無意識のうちに普通列車と同じようにノッチオフを行ってしまい
※例えば普通列車は80キロでノッチオフするけど、B駅を通過する列車は100キロでノッチオフするとか
この時点で頭の中は急行や快速から普通列車に置き換わっていて、スタフを指差呼称してもポーズだけだから頭の中は優等列車には置き換わらず、B駅に止めるべくブレーキをかけてしまう。
車掌もいつもの普通列車の走りから頭の中は普通列車に置き換わってしまい、車内へ停車の放送もしてしまい止まるとドアを開けてしまう。
このケースがほとんどでした。
ずっと車掌をしていた入社同期に聞いた話では、
「オッサン(運転士)ブレーキかけてるわ、これ絶対に止めるパターンやん。このオッサンしょっちゅう通過駅に止めようとしやがるねん、って思いながら自分に『開けたらあかん』って言い聞かせるねんけど、手が車掌スイッチを握ってしまって開けてしまったわ」
私も車掌をしていて何度も通過駅に止めようとする運転士(同一人物ではない)に当たりましたが、ドキッとして車掌スタフを何度も見返して、
「通過であっているよな、間違ってないよな」
って思いながら停止寸前に2点のベル合図(発車してもよい)を送って難を逃れています。
やはり多くの列車が止まる大きな駅の次の小さな駅か、始発駅の次の駅で頭の中が普通列車に置き換わってしまう運転士が多かったです。
誤通過を防ぐ装置としては停車駅を音声で知らせるもののほか、一定速度以上で駅に接近した場合には自動的にブレーキが動作する装置などは、都市部を中心に整備が進んでいるようです。
ところが誤停車を防ぐ装置はありません。
通過駅なのに間違ってブレーキをかけたときに、強制的にブレーキを緩める装置なんてさすがに積めません。
それこそ前方の信号機がY現示の時に速度調節のためにブレーキを入れたのに、強制的にブレーキを緩める装置なんて怖すぎますよね。
停車駅を知らせる音声装置ですが、これを通過駅では「通過です」と知らせる装置にはできると思います。
ただ音声に関してはどこまで有効なのかが私は疑問で、あの装置で誤通過を助けられた運転士もいるとは思いますが、慣れてしまって音声が耳に入ってこないこともあるかもしれないなと思うのですが。
私が入社するより以前のことですが、誤通過が多かった駅の線路の傍に試験的に「パン!」って鳴る装置(装置名は知りません、田んぼでスズメなどを追い払う「パン!」となる装置の音に似ていたらしい)を設置し当初は有効に働いていたものの、その音に慣れてしまった運転士が誤通過を起こしだしたので装置を撤去した、なんて話を聞いたこともあります。
なので誤停車を防ぐには今のところは、運転士は停車・通過をしっかり確認すること。
車掌は停車・通過を確認するとともに、ドア扱いについても確認することしか防ぎようがありません。
また運転士が間違って通過駅に停車させようとすることに気付いた車掌は、運転士に対して何らかの合図を送ることを会社として決める必要もあるでしょうね。
乱点で送ると運転士は止めてしまうでしょうから、出発合図の時と同じ1点または2点合図を送ると決めてしまうほうが良いかな。(車掌から運転士へ出発合図を送らないJR東の場合は特に愛車が決める必要があるかも)