京急「快特」がトラックと衝突して脱線
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京急「快特」がトラックと衝突して脱線

青砥発三崎口行きの京急の「快特」が神奈川新町駅横の踏切で立ち往生していたトラックと衝突し、電車は先頭から3両が脱線しトラックの運転手が死亡。

乗客なども33人がけがを負った大きな事故となりました。

トラックが道に迷ってしまい、細い道から何度も切り返して踏切を通過しようとしていたようですね。

テレビの報道を見ていると踏切障害物検知装置(以下 障検と略します)のことも取り上げられているようですので、このあたりのことを中心にお話していきます。

 

2019/09/09 最下部に追記

 

まず120㎞/hで走行している列車の制動距離ですが、平坦でカーブもない状態ならば約720mが常用制動での距離となります。

※簡易的な計算ですが速度を2乗して20で割って常用制動の距離を計算します

また120㎞/hから非常ブレーキをかけた場合には約580mで停止できます。

あくまで基本的な計算方法で算出される制動距離ですが。

 

京急の障検は異常時に特殊信号発行機(以下 特発と略します)が点滅して運転士に知らせるタイプのようで、障検とATSとの連動はされていません。

特発の点滅を確認した運転士が自分で非常ブレーキを入れることになります。

事故のあった踏切の障検動作を知らせる特発は踏切の外方340mの地点に設置してあり、さらにこの特発を確認できる距離はさらに外方へ260mの地点だそうです。

いわゆる600m条項ともいわれた「鉄道運転規則」の54条に定められていた

非常制動による列車の制動距離は、六百メートル以下としなければならない。

に基づいて、340m+260m=600m という距離となっているのでしょうね。

※いまは「鉄道運転規則」は廃止されて2002年に「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の施行及びこれに伴う国土交通省関係省令の整備等に関する省令」が定められました。この106条で
“新幹線以外の鉄道における非常制動による列車の制動距離は、600m以下を標準とすること。ただし、防護無線等迅速な列車防護の方法による場合は、その方法に応じた非常制動距離とすることができる。” となっています。

 

京急の運転士は、非常ブレーキを自分で入れたが間に合わなかったと話しています。

実際にトラックと接触し脱線もしながら数十m進んでいますので、かなり接近してから非常ブレーキを入れたのがわかります。

 

マスコミの報道で言われていますが、340m外方の特発が点滅していることを260m手前で確認してすぐに非常ブレーキを入れれば間に合ったのではないか。

確かにそうなのです。

ただトラックがどのように踏切に進入し、どのタイミングで障検が動作したのかによって話は変わってきます。

たとえばですが、本来ならば特発の点滅が確認できる260m手前では点滅しておらず、想定より1秒後に点滅をはじめすぐに非常ブレーキを入れたとします。

時速120㎞で走行中の1秒って約33m進みますので、特発の外方約230mで非常ブレーキを投入。

上の方で出した一般的な計算式によると、時速120㎞からの非常制動では約580mが制動距離となり、特発が340m外方にありその230m外方で非常ブレーキを入れたとなると、その距離は約570m。

端数処理が微妙ですが、1秒違うだけで衝突の危険性がぐっと高まるのです。

 

想定通りに障検が動作し特発の外方260m地点で非常ブレーキを入れれば、トラックにぶつかることはなかったかもしれません。

「あれ特発?点滅?」

運転士は赤信号には過敏に反応するようには訓練を受けてはいても、つい頭で一瞬考えてしまいます。

その秒数が1秒であれば33m、2秒であれば66m、3秒も考えてしまうと99mも停止地点が先になってしまうのです。

時速120㎞=秒速33m

 

障検とATSを連動させて、特発の点滅と同時にATSによって自動で非常ブレーキが入るとします。

こういった事故の後は必ずなぜ連動させないのかという話がマスコミから出てきます。

連動させていれば確かに今回の事故は防げたかもしれません。

しかし障検が設置されしかもATSと連動されている踏切であっても、電車と自動車との衝突事故は何度も起きています。

同じ乗務区の同僚運転士は、障検によって自動的に非常ブレーキが動作したけれでも間に合わず自動車と接触。

長期間入院していましたから。

先にも書きましたが想定より1秒障検の動作が遅ければ、たとえ自動で非常ブレーキがかかったとしても衝突を完全に防げなかったかもしれません。

 

障検って一定時間以上連続でセンサーを遮った場合に動作します。

遮断機が完全に降りた踏切を複数の人がぞろぞろと渡る光景って見たことがあると思いますが、こういう時でも障検って動作していないことが多いです。

遮断棒(遮断桿とかアームとか)のあたりで複数の人が外に出られず密集しているときなどは、一定時間以上連続でセンサーを遮ることになるので障検が動作することがあります。

今回の事故でもトラックがどのように踏切に進入したのかによって、障検が動作を開始したタイミングは違ってくるのです。

車両の一部は確かに踏切内にあるが、その場所によってはセンサーを遮らず障検が動作しないとか。

この図は以前にも貼りましたが、赤いラインがセンサーを表しており、このセンサーを一定時間以上遮った場合に障検が動作します。

通過中の電車では障検が動作しないように、斜めのセンサーは電車が接近してくると反応しません。

 

障検のセンサーの感度をもっと上げるとか、現行より短時間センサーを遮っただけで障検が動作するようにはできるのですが、そうすると今度は渡り切れなかった人間が少しいるだけで障検が動作してしまうということにもつながります。

さらにATSと連動させると、頻繁に障検が動作してそのたびに非常ブレーキがかかる。

通行人や通行車両の安全は今より格段に確保されますが、頻繁な非常ブレーキによって車内のお客さんは転倒するリスクを負うことになります。

 

踏切をなくす以外に踏切での事故を無くすことはできません。

鉄道の高架化や地下化、道路のほうをアンダーパスにするか高架道路にする。

どれも時間とお金がかかりますし、すぐに解決できるような問題でもないです。

 


踏切障害物検知装置(以下 障検と略します)の図ですが、これはもっとも一般的な“光センサー式”についてです。今回事故のあった踏切が光センサー式なのか、最新の三次元レーザレーダ式なのかは分かりません。
ストリートビューで確認した範囲では光センサー式のようだったので、こちらで説明しました。

 

報道によると踏切に進入したトラックは衝突の直前ではなく、トラックの荷台部分に降りてきた遮断棒(遮断桿・アーム 遮断機に付随する横断を遮断する棒)が引っ掛かり、そのあと強引にトラック全体を踏切内に進入させたようです。おそらく障検が動作したのは同踏切の外方340mの特殊信号発行機(以下 特発と略します)をさらに外方260mで確認できる地点だったのかなと思います。
完全に遮断棒が降下してから踏切に進入するなどした場合、障検が動作したとしても340m外方の特発の点滅を確認できる位置はもっと踏切に近くなり、すぐに非常制動を入れても間に合わない事故が多いのも事実です。障検の動作が1秒遅い場合と分かりづらいたとえで書いてしまいました、すいません。

 

ATSやATCなどと障検を連動させた場合、今回のトラックとの事故は防げたハズです。
ただ自動化すると踏切によっては頻繁に非常ブレーキがかかることがあります。特に駅近くでラッシュの時間帯に通行人が多い踏切では、渡り切れずに踏切内に取り残される人によって頻繁に障検が動作して非常ブレーキがかかることがあります。
朝の超満員の電車を担当中に障検ではなくATSの誤動作で非常ブレーキが自動で入ったことがあるのですが、女性のお客さんが倒れられて肩を脱臼したという経験があります。自動で非常ブレーキが入ると運転士の任意ではブレーキを緩めることができないので、完全停止した際の動揺で倒れてしまったのだと思います。

 

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