運転士をしていると人身事故というのはどうしてもついて回るものです。
私もそうですが、運転士の中には一度も人身事故を経験しない人もいます。
でも人身事故はやっぱりついて回るものなんですよ、運転士をしていると。
私が初めて人身事故を意識したのは、運転士見習が終わり本務運転士(独車)になって間もなくでした。
優等列車を担当していて、ホームを100㎞/hほどのスピードで通過しようとしたときでした。
ホームの端っこに差し掛かった時、ホームの真ん中あたりで軌道を覗き込んでいる人がいました。
この当時はまだ携帯電話は普及していなかったので、何か他の物を落として覗き込んでいたのかもしれません。
この時は気笛を鳴らし続け
※本当は短急数声で鳴らすべきところ、私はたぶん足がこわばってしまってただ長く鳴らし続けただけでした。
非常ブレーキもすぐに入れました。
幸いすぐに列車の接近に気付き、白線の内側に慌てるように下がってくれたので事なきを得ました。
その後も白線を超えてホームの際を歩く人や軌道を覗き込む人はたくさん見てきたのですが、人身事故を意識したのは最初のこの1回だけだったように思います。
でも毎回ドキドキしたり、頭に血がのぼったりはしていましたけどね。
人身事故を強く意識したのは運転士になって3年目くらいだったでしょうか。
この時は本当に当たる!って叫んだような気がします。
場内信号機のY(黄)現示に従い45km/hに速度を落とし、停車駅へと進入していった。
45㎞/hだとだいたい100mほどの制動距離が必要で、あの辺りからブレーキを掛けようと頭の中で計算していました。
ホームに差し掛かってしばらくすると、片足立ちでホームに立っているものの体全体を斜めにしてホームからほぼ全身が出ている人が視界に入ってきた。
あとで冷静になったときには考えられたのです、完全にふざけているだけだって。
だって両手を上に上げて左右に振っているんですよ、おちょくっているだけですよね。
この時は古い車両で電磁直通ブレーキだったものですから、非常ブレーキを入れたとたんに“パシャーーーン”って音が響き渡りました。
すぐにブレーキも緩まないのでそのままドスン!って停車。
ホームでふざけていた人は体を引っ込めて、ホームのベンチに何もなかったかのよう顔をして座っています。
非常ブレーキをの音を聞いて駅の係員が多数駆け寄ってくれて、私がそのふざけた人のもとへ行く前に駅の係員が確保してくれました。
この時の車掌は経験2年目くらいだったと思いますが、非常ブレーキで止まったことを確認してすぐに
「あの・・・人身事故ですか?」
とインターホンで問い合わせてきました。
「だいじょうぶ!当たらなかったから、ブレーキが抜けたら停車位置まで持って行くから」
こんな感じのことを言ったような気がします。
でもこのあと乗務区に戻ったときにメチャクチャ怒られたんですよ。
実は列車無線で状況を報告するのを忘れていたのです。
完全に舞い上がっていたのでしょうね。
駅から運転指令へ電話連絡してくれていたので良かったのですが、駅の係員が駆けつけてくれなければ電話連絡もなかったでしょうし、下手すれば私に何らかの処分が下っていたかもしれないですね。
ちなみにホームでふざけたやつは学生などではなく、なんとホームレスのおっさんだったのです。
それもどこかで拾ったセーラー服を着たおっさん。
まぁ轢かなくてよかったですよ。
セーラー服を着たおっさんの遺体を処理なんて・・・