私が車掌のころには、寒さが厳しくなるとパンタグラフを上げられない車両がたくさんありました。
パンタグラフはばねの力で上がっています
電車のパンタグラフはバネによって上がっていて、架線の無いところでパンタを上昇させると一直線にまっすぐな状態で立ってしまうのです。
パンタグラフを下げる時はシリンダーに圧縮空気を送って無理やり降下させます。そしてフックに引っ掛けてパンタグラフが上がらないようにしておきます。パンタグラフが上がっておればコンプレッサーで圧縮空気が作られるので、下げる時の圧縮空気に関しては何の問題もありません。
冷え込むとパンタグラフが上げられなくなる
パンタグラフを上昇させるにはフックを外せばOKなのですが、この単純な作業が寒い冬の朝にはできなくなるのです。
最近の電車のほとんどは、バッテリーの電源を使ってフックを動かします。これは乗務員室のスイッチを押せばOKです。
しかし昔の電車の中には、圧縮空気の力を使ってフックを動かすものがありました。圧縮空気はエアタンクに貯められているのですが、気温が下がってくると空気の体積の減少などによって圧力が低下してしまい、フックを動かすことができなくなるのです。スイッチを操作しても何の音もせず、おまけに暗いからエアゲージが見えなくてどういう状況になっているのかが分からないのです。
パンタグラフを手動で上昇させる
このフックにはフックから伸びるヒモや棒が車体の外側の端だったり車内の隅っこに付けられていて、圧縮空気で上げられない場合にはそのヒモや棒を引っ張って取りあえずパンタグラフを1個だけ上げます。パンタグラフが1個でも上がればコンプレッサーが動き出しますので、エアタンクに圧縮空気が貯まればスイッチ操作で残りのパンタを上げられるのです。でも圧縮空気ってなかなか貯まらないのですよ。でもパンタグラフを1個ずつ上げていく手間を考えれば、やっぱり圧縮空気が貯まるのを待っちゃうかな。
パンタが上がらなければヒーターも動作しないし、冬の出庫作業は忍耐の連続だった思いでしかありません。