地下化や高架化によって線路が切り替えられ、時には駅も一緒に引越ししたりします。
昔は古い線路を走行する最終列車や線路切り替え後の始発列車を撮影に来たり、最終列車や始発列車にわざわざ乗りに来られる人ってホントに少なかったのですが、最近は大勢の方が押し寄せますしマスコミまで取材に来たりしますよね。
運転に携わる人間からすると、切替工事が無事に終了するとまずはホッとします。
住宅が密集するなど都市部での線路の切り替えは特に大変なんですよ。
1~2㎞といった比較的短い区間の高架化でも、周囲に土地があまり無い場合には営業中の線路を何度か仮線に移さないと工事が進められません。
そのたびに徐行区間が変わったり、スイッチで起動する信号炎管の設置場所が変わるなどするのですが、その手の説明は書類を見ながら話を聞くだけ。
実際にその仮線をお客さんを乗せた状態で通過するまで、ほぼ何も知らない状態で運転するのです。
で、その仮線に慣れてきた頃には仮線の線形変更があって、また最初から覚え直しの繰り返しなんです。
工事が進捗していき、例えば切り替え区間に駅が含まれている場合は、工事中の駅を車掌と運転士とで見に行ったりします。
車掌は実際にドア扱いする上での注意点、例えばホームの曲がり具合や階段の位置などをチェックするわけです。
運転士も同様に見学する中で、例えば駅との連絡用のインターホンや緊急停止ボタンの位置を把握したり、緊急停止ボタンの解除スイッチの位置などを車掌とともに確認します。
そして運転士は停止目標(列車を停車させる場所を表した標)の位置を確認しますが、正直なところホーム上から見るのと電車の運転台から見るのとでは大きな違いがあります。
なので大体この位置だなというのを覚える程度ですね。
当然ですが机上においても切り替え後の線路のこと、曲線や勾配、信号機の建植位置と信号展開などの勉強をします。
信号展開とは先行列車の走行位置による信号機の現示のパターンがあって、それを勉強するのです。
実際に新しい線路に切り替わり運転が開始されます。
切り替え後一本目の列車には本社の偉い方々から現場の偉い方々までが大挙して添乗しに来るので、マジで鬱陶しい・・・
こっちは一度も切り替え後の線路上を運転したことがない中
“この信号機は・・・駅の外方2番目か・・・”
“これは場内信号機かな、ってことは停止目標まであとどのくらいの距離があるんだ・・・”
“用心してこの辺りからブレーキをかけてみるかな”
みたいな感じで、頭の中でホントに考えることばかりなのに
「新しい線路は気持ちがいいね」
みたいにしゃべりかけてくるヤツがいるんですよ、ホントに鬱陶しい・・・
一度も運転したことがない状態で営業車の一本目を担当していて、机上で事前に習ったこととは違っているとパニックになるんですよ。
ある区間の切り替え後の始発を担当していた私の横には、本社の部長級をはじめ工務や電気など各部門の部長級がずらり。
私の頭の中には
“切り替え後は場内信号機はY(黄)現示だから・・・”
って考えながら運転していました。
遠くにG(青)現示が見えたので
「進行!」
と喚呼すると横にいた部長級が全員
「進行」
と復唱します。
その信号機に近付いていくと私はドキッとして
「場内信号機やん!」
場内信号機の先は左へカーブしていて見えませんが、下手すりゃ過走するかもってことで慌てて非常ブレーキを投入。
ギリギリ停止目標に止まりそうだったので非常ブレーキを抜いて(HRDだったので非常ブレーキもすぐ緩解する)停車。
「この駅の場内信号機って停車列車にはY現示が出るはずですよね?」
と乗務員室内で大声で言った私に、横にいた部長たちも慌てふためいて
「これから本社に戻って報告するから・・・」
今のようにたくさんの方が始発列車に乗りに来ていたら、それこそちょっとした騒ぎになっていたかもしれないですね。