カントという言葉をご存じでしょうか。
曲線部において内側のレールよりも外側のレールを高い位置に設置することで、遠心力を打ち消してより高速で曲線を通過できるようにするために設けられています。
カントが設けられているから、曲線を通過していく車両は内側に傾くようにして走行しているわけです。
曲線部のレールに高低差を設けていないと、車両は遠心力によって強く外側に投げ出されるような重力を感じます。
そして速度が上がれば上がるほど遠心力はさらに強くなり、遠心力に負けてしまえば車両は外側へ放り出されるように脱線してしまいます。
ある駅は曲線の途中に駅が設けられています。
駅間の最高速度が60㎞/hに制限されていて、曲線も制限速度は60㎞/h。
なのでカーブを意識することなく、カーブの途中でブレーキをかけて駅に停車させることになります。
いつものように60㎞/hを少し下回るほどで走行させていました。
カーブの始端に突っ込むと、強烈な遠心力によって車両が外側へ出ていこうとします。
さすがに怖くなって全制動を投入して25㎞/hくらいまで低下させました。
“ここって駅間最高速度と同じ速度制限だったはずだけど、違っていたのかな・・・”
一般的にはカーブに速度制限が設けられている場合には速度制限標識が設けられているのですが、駅間最高速度と同じ場合には省略されています。
ですのでこのカーブには制限標識は設けられてはいません。
でも不思議なことに、私以外はどの列車の運転士からもこのカーブでの異常は無線で報告されません。
「外に飛び出しそうなほどに強い遠心力を感じました」
って無線を入れたのですが、私だけがおかしかった??
乗務区に戻るとすぐに助役に声を掛けました。
「私だけが変な無線を入れたみたいやなぁ」
すると助役からは
「無線までは入れていませんが何人かの運転士から報告は受けていて、工務課の係員が現場を確認しに向かいました」
あまりにも激しく遠心力を感じて脱線する!って思いながらも、そのままの速度でいつもの場所からブレーキをかけて駅に停車させたという運転士が多かったようです。
怖すぎて無線も入れられなかったのが本当のところみたい。
しばらくするとその曲線部は終日25㎞/h以下の速度制限を行うとの無線が入りました。
昨夜レール交換などの作業を行ったのですが、既定のカントの量に達していなかったとのこと。
本来ならば速度制限標識を設置すべきなのですが、臨時の速度制限ということで運転通告券の発行によって速度制限を指示することになったのでした。