残圧停車と階段制動と車掌の感覚……
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残圧停車と階段制動と車掌の感覚……

運転士

残圧停車という言葉に感じる違和感

列車を停車させる際に衝動を極力抑えるために、停車寸前にブレーキを全緩めにすることを「残圧停車」というのでしょうか?

いろいろ残圧停車について書かれているサイトなどを見て回りましたが、ブレーキ弁を全緩めにしてもすぐに空気がすべて抜けないために、その残っている空気で列車を止める方法だと解説されているものが大半ですよね。

〝そういう考え方があるんだな〟

と思いましたが、私からすると違和感しか感じません。

私が教わったり体感した経験から言えば、列車が停車したと同時にBC圧力がほぼ0になっても止まるのは、簡単に言えば車両の重みを利用しているから。

国鉄で運転士をしていた大先輩いわく

「走行抵抗が慣性力と釣り合う、つまりはベクトルが垂直になった時点で停車するということ」

だと説明されました。

車両の勢い(私がいた会社では〝惰力〟という言葉をよく使いました)を完全に殺すことができていれば、最後はブレーキではなく車両の重みを使って停車させることができる、という理解をしていたのですけどね。

ショックなく停止させるには、そこに至るまでにきちんと惰力を殺すことができているかどうかで8割がた決まります。

あとはタイミングの問題ですけど、これは車両の勢いに合わせて全緩めにするタイミングをいかにつかむかです。

実際にはBC圧力が若干残っていてもショックなく止まりますが、これは〝戻しばね圧力〟よりもBC圧力が下回っておればブレーキシューは車輪から離れているためです。

準電気ブレーキ?全電気ブレーキ?の車両も担当しましたが、停止寸前のごく低速時に空気ブレーキに切り替わるタイプでしたから全緩めして停車させていました。

完全に停止するまで電制が働く車両もあるのかな?それは担当したことがないので何とも言えませんが。

 

 

見習中にショックなく停車する技術を習得する

運転士の操縦試験では、停車時の衝動についてもチェックされていました。

3種類の重さの違うおもりを車掌台側に置き、停車時に一番重いおもりが倒れたら試験終了。

最も軽いおもりを倒しても試験は続行されますが、ほぼ確実に減点超過で追試決定でしたけどね。

なので運転士見習中にショックなく停車させる技術の習得に必死でしたよ。

でも先に書いたように、車両の惰力が分かってくればショックなく止める術は8割方は習得できています。

あとはタイミングだけの問題ですから。

 

昔は運転士の指導員同士の会話でよく、

「お前の見習は惰力は掴んできたか?」

なんて話をしました。

口では言い表せにくいのですが、同じ速度でも車両の勢い(惰力)って違っていて、惰力を殺せていないのに階段緩めなんてやっちゃうと停止位置をオーバーしたり、追加制動を行わないと止められなくなります。

惰力の把握ができていないケースで追加制動の必要性が出る場合、たいていは緩めるのが間に合わずドスンと止めてしまうということに繋がっています。

 

階段緩めは停車時のショックを和らげるためのものではない

かなり前ですが、残圧停車って何かなと思い検索していた際に見つけたYahoo!知恵袋に、一段制動階段緩めのことが書かれていて

最初に強いブレーキをかけたあと、徐々にブレーキを緩めて停車させます。
こうすると、電車が止まるときの衝撃を抑えられるからです。しかし、この方法だと停車までに時間がかかります。

これは正解している部分が一切ありません。

昔一般的に使用されていた鋳鉄のブレーキシューは高速時の制動力が弱く、速度が低下するにつれて制動力がどんどん増していきます。

このために最初の制動で強めにブレーキを掛けます。

そのままハンドル角度を保っているとどんどん制動力が強くなり、乗り心地も最悪なものに。

これを防ぐためには少しずつ細かくブレーキを緩めていけば一定の制動力を保つことができますが、ずっとブレーキハンドルを操作し続けるのは現実的ではありません。

いましたけどね、昔。停車するまでずーっとシュシュシュシュと言わせ続けていた運転士が。

でも現実的には2~3回緩めることで、ほぼ最初の制動力を維持して停車させる制動方を一段制動階段緩めと呼んでいます。

制動力をほぼ一定にして停車させるので、停車までに時間がかかるということもありません。

 

今でも鋳鉄のブレーキシューを使用している車両・路線もありますが、大半の鉄道車両は合成のブレーキシューを使用していると思います。

合成のブレーキシューは制動開始時から低速までほぼ制動力は変わらないことになっています。

本来の階段緩めの目的から言えば、合成シューを使っている場合は不必要ということになります。

ただ合成シューと言えども速度域によってブレーキの効き方は違ってきますし、低速になれば制動力は増します。

そして実際には電気制動を併用する車両がほとんどですし、速度が低下すれば摩擦抵抗も増えてきます。

そこで軽くブレーキを入れて電制を立ち上げてから追加制動し、高速から中速域まではハンドル角度を維持し、低速にかけて2回程度緩める二段制動階段緩めを行う運転士が多くなっている気がします。

ブレーキ性能よりも乗り心地を重視した制動方です。

 

ショックなしで停車させると車掌が嫌がる

あまりにもショックなく停車すると、車掌がドアを開けにくいという話をXで見ました。

車掌は停止位置を確認してからドアを開けるのですが、あまりにもそっと止めるとホームを見ていても動いているのか、それとも止まっているのかが分からない時があります。

何だか流れているような気がするけど、これ止まってる?みたいな感覚に襲われるのです。

私も車掌時代に、

「何だか動いているような気がするけど、止まってる?」

みたいな錯覚に陥ったことがありますし、止まっているだろうと思って開扉したら転動防止ができていなくて動いていた、なんて経験もあります。

運転士になってから思ったのは、若い車掌ほどその傾向が強かったです。

私が運転士になった昭和の時代は停車前にドアを開けるベテラン車掌がたくさんいたし、コツンと衝動を残して止めるのを嫌がる人が大半だったので、とにかく常にショックなしで止めることを心がけていました。

以前にも書きましたが、車掌が停車前に開扉操作をするタイミングでブレーキを全緩めにすると、キレイに衝動なしで止められて良い勉強になっていて、ならば若い車掌がドアを開けにくいくらいにそーっと止めてやろう、なんて思いながら運転したこともありました。

 

鉄道社局の〝公式〟Xを担当している社員は鉄道ファン?

私は鉄道社局の〝公式〟Xを見ることはほぼありませんがリツイートで流れてくるものを見ていると、現場では使われていないけど鉄道ファンの多くが使う言葉を、公式〝X〟で見ることが多々あります。

鉄道社局の〝公式〟Xを担当している社員は鉄道ファンとかマニアなのかなと思うのですがどうでしょう。

流れてきた私がいた会社の〝公式〟Xを見てもやはりその傾向が強くて、そんなワードを使われると現場の駅員や乗務員も使っていると思われるだろうなと思慮してみたり。

数年前に残圧停車って何だろうと思って検索して驚いたのが、阪急の公式〝X〟で残圧停車というワードが出ていたことかな。

阪急の現場でずっと働いていた兄に聞いたところ、残圧停車なんて言葉は乗務員や助役で使っているやつはいないし聞いたこともないとの返答が。

私は別の会社で運転士を26年しましたが、残圧停車なんて言葉を目にしたのは会社を辞めてからです。

私が会社を辞めて以降に社内で残圧停車という言葉を使うようになったとは聞いていませんし、この言葉は鉄道ファンの誰かが名付けたのだろうと思っています。

だから鉄道社局の〝公式〟Xで残圧停車というワードを出しているのは、現場上がりの人ではなく、鉄道が好きで鉄道社局に入った社員なのだろうと思っていますが、当たっているかな?

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