優等列車を運転していて通過駅に接近していくと、ホーム上から線路のほうを覗き込むように見ている人がいる。
何かが気になって見ているのかもしれませんが、運転士としては本当に気持ち悪い。
ホームの中寄りでこういうことをしている人ならば、たいていはホントにただ覗き込んでいるだけのことが多いです。
警笛を鳴らしたら、こちらをちらっと見て後ろに下がっていきます。
ただホームの端っこの方で線路を覗き込んでいる人がいると、これはひょっとすると・・・こちらも身構えてしまいます。
このような場合は警笛を早めに長めに鳴らして、少しでも早く後ろに下がってもらうように願うだけです。
列車の停車位置ではない場所で一人線路を覗き込んでいる。
気持ち悪いなぁと思いながら、早めに警笛を鳴らし始める。
こちらを見ているのだがなかなか後ろに下がらない。
私が運転する列車が相当近付いて、ようやく後ろに下がっていった。
その人の前を通過していくときに目が合った。
うつろで血色が悪く、正直言ってゾッとした。
接触しなくて良かったのだが、なんだか私の気持ちは落ち着かない。
それから20分ほど経っただろうか。
先ほどの駅で人身事故が発生したと列車無線が告げている。
“さっきの人だな・・・”
人身事故に遭遇した運転士に聞いてみると、やはり服装や体形などが同じだ。
私だけではなく、その駅で線路に異様に近づくその人を何人もの運転士が目撃していた。
“当たらなくて良かった”
という安堵の気持ちはもちろん湧き上がってきます。
でも
その人の顔色は記憶されていて、なんとも言えない気怠さを感じます。
幸い私は一度も人との接触はありませんでした。
飛び込んだ人はともかく
ホームにいた人が巻き添えを食らってケガを負うこともあります。
私でもモヤモヤが頭に残っているのに
巻き添えを食らった人の精神状態が気になります。