回送列車
回送列車と言えどもダイヤがあるわけで、好き勝手に運転して良いわけではありません。
あまりにもゆっくり運転しすぎて後続の列車を遅らせることがあってはいけないし、あまりに飛ばしすぎて先行列車に近付きすぎて踏切を閉まりっぱなしの状態にしてもダメだし。
ちなみに私が在籍していた乗務区の運転士用スタフには、基本的には回送列車であっても各駅の通過時刻が記載されているのですが、出発駅の発車時刻と交替や入庫する駅の到着時刻の記載だけで、途中の駅の通過時刻が一切書かれていないスタフもあったりで、かなりまちまちな状態になっていました。
※今はそんなことはないと思いますが
スタフに通過時刻が書かれてあればその通りに運転すれば問題ないのですが、通過時刻が書かれていていないスタフも含めて、回送列車担当前には必ずダイヤで前後の列車のことを確認してから運転していました。
以前にも書きましたが回送列車のダイヤ設定って無茶なものもあり、A駅からB駅まで普通列車で3分の設定なのに回送列車では3分30秒で設定されていたりと、起動から停車という時間を含んでの普通列車の3分なのに、通過するだけの回送列車が3分30秒となると、相当ゆっくり走ることが指示されていることになります。
でも後続の列車がかなり近いスジで設定されていたりすると、正直なところ回送列車をダイヤ通りに運転すると後続の列車はY(黄)現示ばかり追い掛けるなど運転が大変だったりします。
そこでダイヤを確認してどの程度で運転すれば後続列車に影響が出ないか、どの程度で運転すれば先行列車に近づきすぎて踏切が閉まりっぱなしにならいかを勘案して運転していました。
回送列車を利用する
ダイヤをチェックして前後の列車に影響が出ない範囲を確認して、いざ回送列車を運転するわけですが、ただ運転するだけではもったいない。
お客さんが乗車していない列車だからこそできることがあります。
例えば下り勾配の頂上付近を何キロで通過すれば、ノーブレーキで下りきったところで最高速度に到達するかとか、
何キロでノッチオフして転がしていけば、その先にある制限速度のある区間(曲線や信号現示など)にノーブレーキで入ることができるのか。
そしてこれらの運転でダイヤ上問題はないのか(遅れたり、後続の列車に影響が出ないのかなど)を確認したりと、いろいろとできるのです。
満員の列車を担当している時は極力ブレーキは使いたくはありません。
だから回送列車で得た運転スキルが普段の運転に役立つわけです。
ダイヤに問題がないことを確認してからですが、普段の運転にはあまり役に立たないこともしましたけどね。
そこそこ距離が長い下り勾配の頂上付近を歩くほどの速度で通過した時、下りきったところでは何キロになっているのかとか。
通常は曲線の速度制限に対しては余裕をもってブレーキをかけるのですが、全制動だとどのくらい接近してからでも制限速度まで落とせるのかとか。
回送列車では本当にいろいろと試しました。
車掌もよく回送列車でお勉強
回送列車では昔はよく車掌が最前部までやってきて内緒で運転するということもありましたが
※平成に入ってすぐのころまでです
運転まではしないにしても、車掌が運転士の横でいろいろと覚えることもありました。
例えば最高速度で走行していて非常制動を入れた時に、停車するまでにどのくらいの距離が必要なのかを目の当たりにしてみたり、曲線ホームを制限速度いっぱいで通過した時のホーム上のお客さんの様子を見てもらったり。
運転士が非常制動を入れるのではなく、最高速度から非常ブレーキスイッチを車掌に操作させて、停車するまでの感覚を体験してもらったりもしました。
そういえいば戸閉保安装置を切ってドアを開けて走行するとか、そんなこともしてみました。
教習所や乗務区の机上講習で話は聞くことがあっても実際に体験することはないですから、これはこれでいろいろ勉強になると思いますし。
私も車掌時代は同じように回送列車でいろいろと勉強しましたからね。
私が在籍していた乗務区では今は車掌が運転台に入ることを禁じていて、車掌が最後部の車掌台にいるかどうかを乗務区の助役など監督職がホームでチェックするという、かなりギクシャクした状態になっているようですが、せっかくいろいろと勉強ができる機会を会社側がつぶして回るのはどうなのかなと思ってみたり。
※うるさくなったのは、他社で車掌に運転させる行為が発覚したため、平成の初めごろに車掌に運転させるのは厳禁と私がいた会社でお達しが出たのに、その禁を破って回送列車を車掌に運転させたことが発覚したからなのですが。
今の時代は会社からの指示だけを聞いて守って働くのが正解だと思うのですが、せっかくならば興味を持って働けるように持っていくのも大事かなと思うわけで。
特に電車に興味がない人はなおのこと、回送列車でいろいろな勉強をすれば仕事に対してもっと関心や興味がわくから、仕事に良い影響を与えるのにと思ったりしています。