駅勤務や車掌はそれぞれ2年と4年しか経験していませんが、運転士は約26年間も経験しました。
※運転士経験のことを〇年ハンドルを持ったとよく表現します
駅や車掌時代のこともいろいろと書いていこうとは思いますが、経験の長さがまったく違うので、やはり運転士時代の話はいろいろと思い出しますね。
で今回は運転指令のミスで駅間に長時間停車せざるを得なくなった話です。
駅間の踏切で人身事故が発生しました。
電車屋さんをやっていると人身事故はどうしたって付いて回ります。
ただ幸いなことに、私自身は人間を轢いたことがないんです。
人間以外は様々なものを轢いてきましたが・・・
昔は人身事故が発生したからといって、列車の運転を長時間にわたって抑止することはありませんでした。
ご遺体を線路外へ運び出す間の10分程度は止めていましたが、警察などが線路内へ入っていても徐行運転で運転を継続していましたから。
それに人身事故を起こした列車だって昔は7分程度で運転再開すればふつうで、10分も止めていたら
「誰や!こんなに長い時間止めているのは!」
って感じで、他の乗務員から怒られていたほどですから。
今のように長い時間抑止するようになったのは、2002年のJR東海道線救急隊員事故以降です。
私は優等列車を担当していて停車駅に止まっていました。
人身事故の現場はこの停車駅と次の駅とのちょうど中間地点にある踏切です。
この時点では警察官や救急隊員が踏切内に立ち入っているという情報は届いていませんでした。
やがて出発信号機がGになり、車掌はドアを閉めて出発合図を送ってきます。
ブレーキを緩めてノッチを入れた瞬間に
「〇〇列車は停止してください」
という無線が入りました。
運転指令が指示した列車番号は、私が担当している列車番号とは違いました。
なので当然ですが電車を出発させました。
事故現場付近では徐行の指示が出ていましたのでそれに従い速度を落としていきましたが、前方から助役が両手を頭上で振りながらこちらへ走ってきます。
なのですぐに停車させました。
「抑止の指示出ていませんか?」
とその助役が私に聞いてくるので
「この列車番号では抑止の指示は出ていない」
と答えました。
「そうなんですか?この列車を駅から出発させないようにと運転指令にお願いしたのですが」
前方の線路内には警察官が多数入っており、遺体の搬出や現場検証を今から行うとのことでした。
ここから30分以上も事故現場での抑止が続きます。
警察官が線路内から退去して抑止は解除されましたが、終点の駅には小1時間遅れて到着。
なぜ駅で止めておかないのだというクレームが、駅のほうへ殺到したそうです。
その日のうちに運転指令の指令員が乗務区へやってきて
「こちらの指示が聞こえなかったのか!」
と喧嘩口調で突っかかってきたので
「お前が列車番号を間違って指示を出したんぞ!お前のミスだ!」
と応戦して乗務区内は騒然となりましたが、この時の無線の内容を聞いていた多数の乗務員や助役が助っ人に入ってくれて、なんとかその場は収まりました。
運転指令も大変だとは思うけど、最も冷静で落ち着いて対処しなくちゃいけない部署なのに、テンパって違う列車番号で指示を出されると、結局は乗客や乗務員に迷惑が掛かるのですけどね。