鉄道ファンの方は新型車両が登場すると喜んで乗車しに行ったり、その姿をカメラに収めようと動き回りますよね。
ただの移動手段として毎日利用されている方でも、新型の車両に乗車すると辺りをキョロキョロと見まわしてみたり、今ならばTwitterなどでつぶやいたりもします。
その新型車両を実際に担当する運転士や車掌はちょっと事情が違ったりします。
運転士や車掌をしている人の中にも鉄道ファンは存在しますが、大多数の電車屋さんはそうではありません。
新型車両を担当して嬉しそうにしているのは一部の鉄道ファンだけで、ほとんどの運転士や車掌はどうやって操作するのか、このスイッチはいったい何なのか、ブレーキはどんな感じに効くのかなどなど、ほとんど?だらけで乗務していることが多いのです。
新型車両が車両製造メーカーから納入されると、まずは工場の検修担当者が図面を片手にいろいろ勉強します。
その後本線路上を走らせて走行のチェックを行うのですが、この時に担当する運転士や車掌は工場のある路線を管轄する乗務区所属の人たち。
この走行チェックで特に異常がなければ、実際に走行する路線の車庫へと配属されます。
この時私が所属していた乗務区の運転士が自線の車庫まで運転するのですが、その運転士はその新型車両に触るのは初めてなのです。
何も知らずに車庫まで運転してくるわけですね。
※こういう電車を担当するのは間違いなくマニアな運転士です。
まったく電車に興味がなかった私は、当然ですがこの手の回送は担当したことがありません。
ここからがまた変わった会社というか変わった乗務区でして、ふつうは習熟訓練とかハンドル訓練と言って新型車両が配属されてくると乗務員がその車両に慣れるために、全乗務員を対象にした試運転を走らせるものです。
ところがいつもですが、車庫の中で装置類の説明だけで終了。
全員がその説明を聞くのですが、そんなもの実際に運転してみないことには何も分かりません。
特にどんな感じにブレーキが効くのかを分からずに営業列車を運転するのが難儀でしたよ。
新型車両が登場してしばらくの間は、背後にはたくさんの鉄道ファンが凝視しています。
ところが実際に運転する運転士は、その車両がどんな感じなのかが全然分かっていないという状態です。
担当する乗務員は滅多に新型車両なんて当たらないから、数か月以上はよく分からず運転していることが多々あります。
鉄道ファンの方は何度も新型車両に乗車しては乗務員室の機器なども撮影していると思いますが、実際に担当する乗務員は機器の配置場所も分かっていません。
ホームで交代する列車の到着を待っていたのですが、そこに入線してきたのが新型車両でまだ一度も運転したことがありません。
優等列車だったので40秒ほどの停車時間しかなく、すぐに車掌がドアを閉めて出発合図がきます。
しかし私は戸閉合図の場所が分かりません。
キョロキョロとしてみたのですが結局見つからず、仕方なくブレーキを緩めてノッチを入れました。
※戸閉合図が点灯していなければノッチは入りません。
ふつうに動き出したのでそのまま運転を継続。
次の停車駅までの間、必死で戸閉合図の場所を探し続けましたよ。
到着間際に戸閉合図の場所を発見して安堵したのもつかの間、今度は止めなくてはいけません。
いつもの感じでブレーキを入れると効きすぎます。
慌てて一段緩めると今度はメチャクチャ伸びていきます。
何が何だかわからずに緩めたり追加したりを繰り返していきますが、やっぱりいつもと違いました。
電制(回生)がいつまで経っても切れないのです。
後で知ったのですが純電気ブレーキだったのです。
車両をショックなしで停車させるには、止まる寸前にブレーキを緩めてしまい車両の重さで止めるようにします。
いつもの調子でいつもタイミングでブレーキを全緩めにしたら、全く止まることなく転がっていき、あわててブレーキを入れてコツンと停車させました。