私鉄では多く存在している(存在していた?)界磁チョッパ制御の車両。
基本的には25~30㎞/hで回生ブレーキが失効して空気ブレーキになります。
最近のVVVF制御の車両はほぼ停止するまで回生ブレーキが動作しているのですから、省エネという面からみても大きな違いがあります。
初期の界磁チョッパ制御の車両は、電動車(M車)の回生ブレーキが動作している間も付随車(T車)の空気ブレーキが動作していました。
ところが省エネという観点から徐々に回生優先という考え方が入ってきて、後期の界磁チョッパ制御車では回生ブレーキ動作中は付随車のブレーキ力相当分も回生ブレーキでまかなうことになっていきます。
25~30㎞/hで回生ブレーキが失効するまでの間、付随車のブレーキは全く動作していないことになります。
この界磁チョッパ制御車の中の最後のほうの編成が、雨が降ると悪魔の電車に変わっていくのでした。
後期のチョッパ制御車の運用が始まった当初、とにかく空気ブレーキを使いたくなかったためか電動車の空気ブレーキも全く使用していませんでした。
※ブレーキを投入した時には一瞬全車両に空気ブレーキが入りますが、そのブレーキ力のすべてを回生ブレーキでまかないます。
晴れている日はこれでも特に問題はありません。
回生ブレーキが失効しても全車両の空気ブレーキが一斉に動作して、ごく普通に止めることができました。
ところが雨天時には恐怖の瞬間へと変わるのです。
何とか回生ブレーキで25~30km/hまで落としていきます。
そして回生ブレーキが失効して空気ブレーキのみになります。
それまでは一切空気ブレーキを使っていません。
するとブレーキシューにも雨水がかかっているのでびしょ濡れ状態になっています。
そんなブレーキシューで雨に濡れた車輪を抑えつけようとすると、摩擦係数0の状態じゃないの?っていうくらいに全くブレーキが効きません。
運転士は体感でこのブレーキのステップ数ならばこのくらいの減速度だと分かっており、体が慣性の法則で前に倒れないように無意識のうちに後ろのほうへ重心をかけます。
重心を無意識のうちに後方へかけた運転士にとって、制動力がほぼない状態だとまるで加速しているように感じるほど恐怖なのです。
それでもって空気ブレーキが全く効いていないため、停止目標がドンドン近付いてきて過走(オーバーラン)の恐怖も味わうことに。
この編成を雨天時に担当するとき私は、通常の制動距離×1.5の距離を取っていました。
80㎞/hの通常の制動距離は約320mですので、この場合は約500mは取っていました。
そしていつも通りにブレーキをかけます。
回生ブレーキはふつうに効いているので、ついブレーキを緩めそうになりますがそこは我慢。
そして回生ブレーキが失効して空気ブレーキに変わるときに、すぐに非常ブレーキを投入。
それで様子を見ながら少しずつ緩めて停止目標に止めていました。
もうねぇ、非常ブレーキを投入するときに各駅で
「どこに止まるかは電車に聞いてくれ!」
ってマジで思いながら運転していましたからね。