運転士になったときは私はまだ独身でしたし一人で住んでいたこともあって、運転士になったことを誰かに祝ってもらったということはありませんでした。
私自身運転士になることが目標で仕事をしていたわけではなく、車掌と同じ行路を乗務しても単価が全然違うことから、まぁはっきり言ってお金目当てで運転士になっただけでした。
なので会社の人事異動によって運転士になり給料も上がった、そんなとらえ方でしたね。
運転士の見習になれると決まった時に泣き、本務(独車)になったときにまたさらに泣くという人も中にはいるのですが、そういう人と違って私は感動を覚えるということもなく、本務初日から休日出勤で乗務しなきゃいけないということがただ悲しかっただけです。
でも運転士を26年間して助役への異動が決まった時、私の妻はかなりホッとした様子を見せていましたよ。
電車の運転士って勤務時間が毎日ばらばらで、睡眠不足が続くし、かなりヘトヘトになって帰ってくるからかなと思ったわけですが、家族から見る運転士ってかなり怖い職業に映るそうなんです。
どこかの路線で電車と車がぶつかったなんてニュースを見るたびにドキドキする。
朝のローカル番組を見ているときに、私が乗務する路線で人身事故があって運転見合わせっていうテロップが流れたりしたら、人身事故に巻き込まれたりしていないのかなって思うそうなのです。
運転士をしていた時にはそんな話を聞いたことはなかったのですが、毎日こんな思いをして家で待っていたって助役になってから聞きました。
助役になってからのほうが仕事自体はしんどかったのですが、家族からは運転士をしている時のほうが険しい顔をしていたともいわれましたよ。
私の子供たちに運転士をしている私についてどう思っているのかと聞いたことがあるのですが、別になんとも思っていなかったらしいです。
何度かは私が運転する電車に乗りに来たこともあるのですが、いかんせん私の子供たちは全く電車に興味がなく、ただ変わった職業だと思っているに過ぎなかったようです。
でも友達からは憧れのまなざしで見られていたって言ってましたね。
会社から支給される制帽やあまったダイヤグラム、あとはスタフなんかを子供の友達にあげたりしていましたからね。
家族が運転士を辞めたらホッとするというのは私の家族にかぎった話ではなく、わりと多くの家族の方は同じように思っているようです。
そして助役を辞めて事務職に異動したときもまた、ホッとしたと言っていました。
鉄道の現業職で働くというのは、家族にとってはかなりしんどいものだそうです。