今回の話は私の運転士生活の晩年に起きたことです。
早朝から風が吹き荒れて、軌道内にはさまざまなゴミが飛んできていました。
台風が接近していたためですが雨はほとんど降っておらず、時折吹く突風に車体がどこかへ持って行かれそうなほどに揺れる中を運転していました。
この時には徐行の指示は出ておらず通常運行していたのですが、運転士の中には自主的に速度を落として運転する人もいる状態でした。
また荒天の日はお客さんの動きも当然鈍くなるため、どうしてもダイヤ全体が遅れてきてしまうものです。
強風のために施設の点検を目視で行うのですが、電気・土木などの係員が運転台に添乗して異常の有無をチェックし、まずい所には別途係員を手配して現地へ向かわせます。
この時もたくさんの係員があちこちの列車に添乗して目視点検を行っていました。
普通列車を担当していた私の列車にも土木だったかな?作業着の係員が2名添乗していました。
優等列車はすでに数分遅れていたため、発車した後すぐに出発信号機がY(黄)現示に。
信号に従って出発していき、2駅ほど停車した後に事件は起きました。
出発信号機に相当する閉塞信号機はG(青)だったのですが、その先の閉塞信号機はYG(黄青)Y(黄)と続きました。
その先は住宅地の中をカーブしている線形で、カーブを抜けきったところの閉塞信号機はR(赤)を現示していることになります。
当然ですが赤信号がついていることを念頭に、Y現示の閉塞信号機を超えてからは10km/hくらいでゆっくり進みました。
Y現示の信号機を超えて運転する場合は45km/h以下で進めるのですが、先が詰まっているような気がしたためです。
踏切で待っている通行人や車にとっては迷惑かもしれませんが。
カーブの途中で私や隣に添乗している土木の係員は思わず声を上げました。
「危ない!!」
なんとカーブしている線路の真ん中に運輸系の制服を着た係員がしゃがんでいたのです。
よく見ると女性でその時は誰だか分かりませんでしたが、あとで先行の優等列車を担当している女性車掌であることが分かりました。
10km/hほどですから常用制動で女性車掌の手前に停止させて、何をやっているのかを聞きにいくことに。
「運転士の指示で軌道内に散乱しているゴミの撤去をしていました」
これも後になって分かったことですが、強風のために外に置いていた家庭用の大きめの水色のゴミ箱が飛ばされてきて、先行の優等列車と接触したそうです。
それで運転士が車掌に指示をして大きめのゴミを撤去していたそうですが・・・
その女性車掌がいた地点からR(赤信号)を現示している閉塞信号機まではいくらか距離があるため、私はその場所に45km/hで接近してもR現示の閉塞信号機までに十分停車することができます。
もしも45km/hでその女性車掌へ接近していれば、発見してから非常制動を入れてもおそらく止まりきりていなかったでしょう。
カーブしていて先が見えませんでしたからね。
これ実は後方の列車に対する列車防護を行わなければいけないんですよね。
この時の先行の優等列車の運転士は列車防護なんて頭に全くなく、車掌も急に運転士に言われたために何も持たずに軌道内へ降りたのでした。
本当は運転指令や乗務区の助役などへ報告しなきゃいけないのですが・・・
当日に当該運転士にこそっと、後方防護のことを忘れていただろうとだけ伝えて終わりにしました。