支線を担当していた日のことです。
その路線には電磁直通ブレーキに抵抗制御という、今では珍しくなりつつある車両が走っていました。
でもその当時は本線の優等列車でもごくふつうに電磁直通ブレーキで抵抗制御という車両が使用されていましたから、特に珍しいということでもなかったですね。
休憩が終わりホームで列車の到着を待ちます。
担当してきた運転士からいつものようにごく簡単な引継ぎを受けて、ブレーキハンドルを手渡されます。
支線の起点駅での交代ですので、ブレーキハンドルを受け取ってから反対側の運転台へと歩いていきます。
折り返しの時間があまり長い設定ではなかったので、すぐに反対側の運転台に乗り込んで出発の準備を行います。
乗務カバンを乗務員室内の適当な場所に置き、スタフや運転時計などの備品類も所定の位置に置きます。
そしてブレーキハンドルを差し込むわけですが、ここでちょっと異変を感じました。
ブレーキハンドルの画像を東武鉄道キッズサイトからお借りしました。
ブレーキ弁にハンドルを差し込む際には、この画像とは逆に赤丸で囲んだ方を下にします。
普段はスッと差し込めるのに、半分くらいしか差し込むことができません。
一度抜いてから差しなおそうと思い抜こうとするのですが、なんと抜くこともできません。
きちんと差し込めていないので当然ですがブレーキ操作もできません。
これでは電車を運転することができないし、すでに出発信号機もG(青)に変わっている状態で間もなく出発時刻になります。
これはマズいと思い慌てて列車無線を入れます。
「ブレーキハンドルが故障しており、ブレーキ弁に差し込むことも抜き取ることもできません!」
無線を入れ終わった瞬間に出発指示合図が鳴り響きます。
車掌は事情が分かっていないようで普段通りにドアを閉めようとするので、また慌てて車掌にドアを閉めないように指示。
駅の首席助役が替わりのブレーキハンドルを持って駆けつけてくれましたが、いかんせん壊れたブレーキハンドルを抜き取ることができません。
そこで替わりのブレーキハンドルで壊れたブレーキハンドルを叩いて抜き取ることに。
数分かかって何とか抜き取ることができました。
替わりのブレーキハンドルはいったいいつから放置されていたの?というほど汚く、形もその当時使用されていた物とは若干形が違っていました。
支線を何往復かして休憩所へ行くと、壊れたブレーキハンドルを持った乗務区の助役が待っていました。
よく見ると、上の画像の赤丸部分の爪のような形をしたところが、なんと横を向いていました。
この爪はブレーキ弁に刻まれた“緩め位置”や“全制動位置”“抜き取り位置”などの溝部分で軽く引っかかるようになっていて、運転操作中にブレーキハンドルの位置が体感で分かるようになっています。
そしてこの爪はハンドルの柄の内部にバネが仕込まれていて、上の写真の状態よりももう少し押し込むことができます。
上の写真には青色の矢印も付けましたが、通常は柄の先端部分の青矢印の場所はきれいにフタがされている状態になっています。
そのフタは接着されているようで簡単に取ることはできません。
でもそのフタの中にはネジがあって、そのネジを締めることで赤丸部分の爪のぐらつきを止めることができるのです。
私が勤務していた会社ではほとんどのブレーキハンドルのフタが削られて穴が開けられ、ネジが見えるようになっていたのですが、今回故障したブレーキハンドルは新しいもので穴が開けられていなかったのです。
しかし出発前のブレーキハンドルの故障発覚で良かったですよ。
これがもし走行中に故障してブレーキハンドルがまったく動かせなくなったら・・・
この一件があってからは、私は乗務カバンにドライバーを忍ばせておくようになりました。