むかし旧型客車が走っていた頃、車掌はドアを閉めるという作業はありませんでした。
乗降が終わって安全を確認したのち、機関士に対して出発を指示するのが車掌の大きな仕事の一つでした。
今は自動又は半自動扱いのドアを閉めるという作業が、車掌の大きな任務へと変わりました。
乗降用ドアって案外重たくて、閉まるドアに当たるとケガしてしまうことがあります。
また服の一部やカバンなどを挟んでいるのにきちんと確認せずに出発合図を運転士に送ったために、引きずられて大けがをしたり死亡事故となるケースも実際に起こっています。
なので車掌がドアを閉める(車掌スイッチを操作する)という行為は、実は運転士以上に危険な作業だったりするわけです。
運転士が故意または過失によって旅客にケガを負わせたり死亡させることは稀ですが、車掌は通常業務の中で旅客にケガを負わせたり死亡させてしまう可能性があるのです。
なので車掌として乗務しているとき、ドア扱いは本当に神経を使いました。
でも避けようがなく旅客にドアを当ててしまう、そんなこともありました。
よくあるのが乗降は終わったと確認しドアを閉めたところ、電車に沿って歩いている人が急に乗り込もうとするケース。
ある程度は待つんですよ、電車に沿って歩いているんだからおそらく乗るのだと思って。
ところがまったく乗り込もうとする様子がうかがえない。
車掌だったり駅などの係員がドアを閉めることを放送しても歩き続けている。
なので車掌スイッチを操作したら、急に小走りになって閉まりかけのドアに体をこじ入れて乗り込もうとする。
そういった人っておそらく
「自分が乗車するまではドアを閉めない」
って思っているのかな。
中には下車した駅で
「電車に乗ろうとしたらドアを閉められて当たってやないか!」
ってクレームを入れる人もいるんですよね。
今ならばホーム上の監視カメラの録画映像を確認して、車掌と旅客のどちらが危ない行為をしているのかがすぐ解明できるのですが、昔は結構難儀することも多かったですからね。
“このホームには真ん中あたりの階段からの駆け込みが多い”
なんてことは車掌をしておれば当然頭に入っている情報なのですが、駆け込み以上に難儀なのが「駆け込み傘」でしょうか。
傘を突き出して閉まるドアに挟み込み、車掌が再開扉したらそのすきに乗ろうとする人ですね。
4両以上離れていると、車掌からはドアに挟まった傘なんて確認できません。
ほとんど見えないんですよ。
車側灯が点いていれば閉扉できていないと分かるのですが、細い傘や杖などだと車側灯も消灯してしまうことがあり、傘や杖がはみ出たまま電車が出発することになります。
車掌は当然集中してドア扱いを行っていますが、旅客側の危険な行為をすべて回避するのはやっぱり難しい。
閉まってきたドアに当たり弾き飛ばされて骨折した、なんて事象もありましたから。