過走(オーバーラン)の記事がネット上で見受けられたときに、それに対する感想みたいな感じでこのブログにも書いてきましたが、私自身が起こした過走についてはほとんど書いていませんでしたね。
私は運転士現役時代に何度か過走(オーバーラン)をしています。
でも過走したからと言って何らかのペナルティを食らったことはなく、過走した後の処置が適切だったかどうかだけが問われていました。
その中で印象深かった過走案件を……
その駅は上り線は下り勾配がきつく、さらに停止位置のすぐ先には構内踏切があり、そのすぐ先には一般の踏切があるという、運転士としてはかなり嫌なロケーションの駅でした。
2つの踏切では列車が到着する寸前に閉まっている遮断桿を押し上げて渡り、走って列車に乗車してくる人(学生が多いかな)も多数おり、そんな場所で過走すれば人身事故が発生する確率が高くなりますからね。
でも私が過走したのはこの駅の下り線。
上り勾配で比較的止めやすく、上り線とは違って駅の先の踏切まではかなりの距離があって、運転士としては気が楽な場所でした。
上り勾配なので速度が落ちており、制動初速は60km/hくらい。
いつも通りに160mくらいからブレーキを入れ、停止位置を示す停止目標を凝視しても余裕で止まる感じがしました。
車両は全電気指令式ブレーキで遅れ込め制御が付いた車両。
※私がいた会社では「遅れ込め」なんて言わずに「回生優先ブレーキ」とストレートに呼んでいました。
時間もまだ余裕があるし、ゆっくりとブレーキを緩めながら伸ばす感じでちょうど良いだろうと判断した私。
その時ホームにある売店の店員が線路際に歩いてやってくるのが見え、白線を超えたところで警笛を鳴らす。
するとその店員は手に持っていたポリバケツに入った液体を、線路内へ投げ捨てた。
その液体は水だと思いますががやけに白っぽく見えたので、たぶん掃除などで使用した後の汚れた水か、洗剤などが入った水だったと思います。
とにかく列車が入駅してくるそのタイミングで、私の目の前で捨てられた水。
「クソっ!何をするんやこの店員は!」
多分声に出して言ったと思います。
でもカッカする前に異変が起きました。
その水がまかれた部分を通過した瞬間に“ギューン”という音が車輪から聞こえてきて、いきなり車輪がロックしてしまったのです。
まかれた水によって回生ブレーキ(電気ブレーキ)が一気に車輪の回転を抑えつけ、さらに車輪の回転数が低下したことで回生ブレーキが急に失効して空気制動のみになったのですが、その空気ブレーキが車輪の回転を完全に止めてしまい、ロックされた状態でレール上を滑り始めましたのです。
先頭車の台車だけではなく後ろの方の車両の台車も同じような状況になり、上り勾配に関わらず速度の低下がほぼ見られない状態でレール上を滑っていき、結局2両がホームから飛び出して停止しました。
「急に電車が速度を落とさずに伸びていったように感じたけど、何かあったのか?」
この時の車掌は超ベテランの方でしたが、驚いてインターホンで尋ねてきました。
とりあえず規定通りの処置によって停止位置を修正し、1分半ほど遅れて駅を出発。
レール上を滑った際に車輪にできた「ガンガンガンガン……」という大きなフラット音を響かせながら運転を継続しました。