転落検知マットをご存じでしょうか。
曲線ホームなどで車両とホームとの間隔が広いと乗降の際に転落する危険性があります。
転落したことに車掌が気付かずに出発合図を送った場合、転落した旅客が出発した列車に接触する危険性があります。
そこで車両とホームとの間が一定の幅以上がある箇所に転落検知マットを設置し、このマットの上に一定以上の圧力がかかれば動作し、ホーム上の特殊信号発光機が明滅し警報ブザーも鳴動して乗務員や駅係員に知らせるようになっています。
会社によってはさらに閉塞や場内・出発信号機をR(赤)にすることで、ATSによって強制的にブレーキをかける仕組みとしています。
画像出典 京三製作所
この装置ってかなり感度が良くて、例えば野良猫が飛び乗った瞬間に装置が動作します。
特殊信号発光機が明滅して警報ブザーも鳴動するので、車掌や運転士だけではなく駅係員も一斉に転落検知マット周辺に集まり、異常がないのかを確認します。
ホーム上からの目視で確認できないときは、転落検知マットが敷かれていない個所からホーム下に降りて車両の下なども探すことになります。
猫の場合は警報ブザーに驚いてすぐに逃げてしまうので、結果としては原因不明ってことになるわけで。
原因が特定できずに転落検知マットの操作盤をリセットして運転再開するのって、私は本当にイヤでした。
だって探しきれないだけで本当は台車の下あたりに人がいたら・・・
ちなみにこの転落検知マットって一カ所に重さが集中するもの、たとえば傘の先みたいに細長いものだと重量自体は軽くても動作するんです。
乗降の時にお客さんが傘を落として動作するということもありました。
でも不思議と携帯電話を落としても動作しなかったりするんですよ。
一点にかかる圧力の違いだとあらためて知ったりしてね。
もう30年ほど昔の話ですが、ある駅の所定の位置に停車させた私。
その駅で乗務交代だったので、運転時計などの持ち物を上着のポケットに無造作に放り込んでいきます。
目が合った交代の運転士は入社の同期生の〇〇だなぁと思いながらホームに降り立とうとした瞬間、警報ブザーが駅の中に響き渡りだしました。
駅事務室からの放送で
「〇番線で転落マットが動作!」
という声を聞きました。
“〇番線ってここだぞ??”
転落検知マットは先頭車両付近に敷設してあるので私は内心
「落ちたお客さんをひいたんじゃないだろうな・・・」
と慌ててホームに降り立ち、転落検知マットをホーム上から覗き込みました。
すると転落検知マット上には、同じ制服を着た人間がうずくまっています。
なんと落ちたのは交代する運転士です。
駅の係員も多数詰め掛けていたので、一緒にその運転士をホーム上に担ぎ上げました。
「すまん!ちょっと目まいがしてなぁ・・・」
そう言って謝った運転士の息はかなり酒臭かった。
そして何事もなかったかのように、私と交代して引継ぎをし列車を担当していきました。