支線の車両ってそのほとんどは、本線に新しい車両が導入されて玉突きで入線してくるケースがほとんどではないのかな。
少なくとも私が勤務していた会社では、支線用に新しい車両を新造するなんてことはほとんどありませんでした。
そういえばある支線は
「車両の墓場」
なんて言われていましたしね。
本線で使い倒して支線運用になり、さらに老朽化が進んだら「車両の墓場」で余生を送る。
「車両の墓場」での運用の後は解体されるだけ・・・
「車両の墓場」は設定最高速度が低いので、車両課によって床下の制御器をちょいちょいと操作されて速度があまり出ないように細工されていました。
さすがに運転士が制御器内まで触ることはなく、まぁ言ってみれば牙を抜かれた状態で「車両の墓場」で運用されるわけです。
でもそういった作業も私が運転士になったころには行われなくなっており、「車両の墓場」線用の車両でもそこそこの速度が出るようになっていました。
たまに仕業で回ってくる、車庫から支線への送り込み回送。
普段ならば100Km/h以上で走行する区間を、牙を抜かれた車両でぶっ飛ばしていきます。
といっても速度が出ないように触られていますから、本線の車両ならば余裕で100Km/h以上を出している区間を、ノッチを入れっぱなしにもかかわらず70Km/hくらいでモーターをうならせながら走っていきます。
軽い上り勾配に差し掛かると、ノッチを入れっぱなしなのにどんどん速度が落ちていくし。
そして下り勾配に差し掛かると、その下り勾配の勢いを使って速度アップする。
本線上をずっとノッチを入れっぱなしで走っているわけだけど、100Km/hなんていくら頑張っても出ない。
やがて「車両の墓場」が分岐している駅に近づき、ノッチをオフにするとともにブレーキを入れる。
ノッチを入れっぱなしの間も甲高い音を残して必死で走っている感じがしたけど、ブレーキを入れて電制が立ち上がるともう一段甲高い音とともに、ものすごいブレーキ力でかなりの衝動を受ける。
なんかねぇ、もう歳なんだからあまり無茶な走り方をさせるなと、怒っているみたいなかなり強烈なブレーキ。
たぶん保安要員として乗務している車掌も、体を前へ投げ出されそうになったんじゃないかな。
「お前だけやぞ、こんなボロで目いっぱい飛ばす運転士は」
なんてベテランの車掌さんによく言われたけど、古くてがっしりとした車体は最近の車両より頑丈そうだし、制御器をいじられているだけで台車などは大昔本線を疾走していた頃のままだったから、飛ばしていて本当に楽しかった。
運転士になって数年後には制御器をいじられていない状態の車両が「車両の墓場」に入線するようになったけど、楽しさはやっぱり半減したかな。
もちろん今の車両のような優等生よりは運転のし甲斐があったけど。