運転士をしていて避けられないもの、人身事故と車両故障です。
私は26年ほど運転士をしていたのですが、人身事故の経験は無し。
ただし人身事故の現場には多数遭遇してきましたので、悲惨な現場も数多く見てきました。
それに間一髪で人身事故を免れるなど、あと少しで人身事故だったという経験もかなりあります。
他の運転士によく言われたのですが
「人身事故は当たるほうがマシ、事故後に現場を見るほうがはるかにイヤなもの」
もちろん当たった瞬間の音・衝撃や焼けるような匂いなど、実際に当たった運転士にしか分からないものがあります。
でも人身事故に当たった瞬間にどういう処置をしなきゃいけないのかで頭がパニックになって、他のことを考える余裕がなくなる。
事故自体も瞬間の出来事ですしね。
それに人身事故って鉄道の場合はほぼ運転士の側に非はありません。
そこが自動車で人身事故を起こした場合とは違い、逃げるなんて選択肢が頭の中をかすめることもない。
とにかく処置に集中すればいい。
しかし人身事故を起こした運転士以外の場合は、その現場にご遺体があるということを想像しながら列車を運転するわけで、考える間がすごく長い。
こういったことから人身事故は当たるほうがマシだと言われる所以かもしれません。
それに対して車両故障は運転士には非がないかもしれませんが、鉄道会社側の責任ではありますよね。
そして会社の制服を着ている以上は、会社を代表しているという感覚は当然あります。
車両が故障して運転に支障が出れば、運転士として最低限の応急処置をしなきゃいけない。
これも結構プレッシャーになるのですが、人身事故の時とは違い乗客の視線は車両故障の時のほうが厳しく感じると言います。
※私は人身事故の経験がないので何とも言えませんが、ただ車両故障の応急処置の際の視線はたしかに突き刺さります
それに人身事故の際の処置って、車両が故障しなければそれほど大変なものではありません。
線路脇へご遺体を移動し、あとは簡単な車両点検をするだけですから。
運転再開までに時間がかかる原因も、そのほとんどは警察や消防の線路内立ち入りによる運転抑止ですから、運転士・鉄道会社のせいではない。
文句を言われたとしても
「警察から運転するなと言われていますから」
と言うことができます。
ところが車両故障となるとパニックになった頭から処置の方法を思い出して、必要な作業をしなきゃならない。
あまりに時間がかかればお客さんの視線どころか厳しい言葉が飛んできますし、乗務区に帰ってからは助役たちからも冷たい視線で見られながら
「この処置の仕方は知らなかったのか?」
ってな感じで突き落とされてしまうこともありますから。
運転士としての知識不足を指摘されたりすれば、恥ずかしいですよ。
人間としてのちに人身事故を思い返してしまうのはもちろん嫌ですけど、運転士としては人身事故よりも車両故障のほうがイヤ、という人のほうが多いでしょうね。