JRが抱える多数のローカル線は、儲かる路線の収益によって支えられてきました。
ところがコロナ2019(新型コロナ)による外出自粛によって世の中の動きが大きく変わってきました。
コロナ2019がかなり落ち着いてきても、2018年以前の利用客数にはなかなか戻らないのです。
ローカル線を支えるだけの収益が、これまでの儲かる路線から生み出されにくくなる中で、ついにはローカル線の存廃を考えなければいけないところにまで追い込まれています。
ローカル線に対する考え方の違い
ローカル線の存廃問題を扱う新聞などのマスコミをはじめ、ローカル線を抱えるJR、そしてローカル線が走る地元自治体の首長や住民など、そのすべては通勤・通学の足としての鉄道の必要性と採算性からローカル線を見ています。
私自身もその方向性から見ているので、今の状態ではバス転換もやむなしという考え方になっています。
先日JBpressに「えちごトキめき鉄道」の社長・鳥塚亮氏のローカル線に対する考え方が3回にわたって掲載されていました。
Yahoo!ニュースでも見ることができます。
- ローカル線再生術、「客がいないから不要」を「客がいなくても必要」に変える
- わずか1分で切符は完売、もてなしはカップ麺のローカル夜行列車はなぜ人気に
- ローカル線をさらにダメにするのは、JRが主張する間違った「上下分離」だ
鳥塚亮氏の捉え方は現状のローカル線問題を考える上でかなり重要な点を提起されています。
これまでの考え方である通勤・通学輸送や地元の重要な足という考え方だけではなく、人を呼び寄せることができる観光地との融合で鉄道を活性化していこうというもの。
そこには鉄道自体の魅力も加わる必要性もあるし(観光列車の走行など)、収益は鉄道単独で見るのではなく地域全体でどの程度の収益が上がるのかという、これまでとは違った視点が必要だというものです。
冬季は除雪の必要があるから運休とするなど、ローカル線は観光鉄道として存続させる方向性も訴えられております。
たしかに除雪費用はかなりの金額が必要ですから、冬季は全面運休とすればその分の費用はかなり抑えられます。
ただしそこには、通勤・通学の足という従来の鉄道に求める視点はありません。
雪が積もる季節は通勤・通学の足は確保できないということ。
つまり、そうでもしないとローカル線の存続は難しいということにほかなりません。
嵯峨野観光鉄道
嵯峨野観光鉄道はトロッコ嵯峨駅~トロッコ亀岡駅を結ぶ鉄道で、保津川沿いの風光明媚な区間をディーゼル機関車に引かれるトロッコ客車で味わいます。
この路線はもともと山陰本線で、複線化による線路付け替えによって旧線となった線路を活用しています。
嵯峨野観光鉄道になってからは乗車したことはありませんが、山陰本線だったころに何度も旧型客車で乗車したことがあります。
その当時のこの線路沿いは、よくテレビ等で見るような今の嵯峨野観光鉄道沿線とはかなり違っているように思います。
たしかに桜は咲いていたけど、今ほどきれいでは無かった記憶が……
紅葉のシーズンもきれいだけど、今ほどまた乗りたいと思うような景色ではなかったような……
嵯峨野観光鉄道のHPにも記載されているし、テレビ番組でも見たのですが、沿線に桜や楓を植樹をして沿線を整備していったのです。
ただのローカル線を観光鉄道として活用するにしても、きちんと戦略を立ててどのように沿線価値を高め、そしてリピーターの獲得に動くことができるのか。
保津川の渓谷沿いを走るという立地にプラスアルファを施したから成功したのであって、昔の山陰本線時代のままでは成功はかなり厳しかったのではないか。
そう思うと現在存廃問題で揺れているローカル線を観光鉄道化したとしても、そのすべてが成功を収めることはかなり厳しいでしょう。
自治体の出資だけではなく、どれだけの資金を企業や個人から集めることができるのか。
そのためには相当ち密な計算と戦略が必要になるのではないでしょうか。
結局は自治体の覚悟が必要
ローカル線を何とか存続させるために観光鉄道化に舵を切るにしても、今のままあくまで地元の足として残すにしても、自治体はそれ相応の出費は覚悟しなければなりません。
上下分離方式で設備を自治体、列車の運行をJRに任せるにしても、「えちごトキめき鉄道」の社長・鳥塚亮氏が提案する設備をJRが、列車の運行を自治体やまったく別の企業が担うにしても、自治体から財政出動がなければ無理。
上手く軌道に乗ったとしても黒字化はかなり厳しく、必ず自治体は赤字の補填に動く必要が出てきます。
現状のままJRに任せるにしても、国だけではなく自治体の出費はかなりの額を覚悟する必要があります。
今俎上に上がっているローカル線をすべて観光鉄道化した場合、そのすべての路線が今以上の収益を上げることも現実には難しいでしょう。
もちろん各鉄道がそれぞれ独自の特色を出せれば良いのですが、さすがにそれは難しいのではないかなと。
沿線に観光施設を作ったとしても、それだけでお客さんを呼び込み、さらにローカル線を使ってもらう流れに持って行くのは至難の業だと思います。
すぐに考え付く駅のコンビニ化とか集会施設を作るだけでは、その沿線に元々人があまり住んでいなければロカール線浮上のきっかけにもならないでしょうしね。
結局は鉄道を残せとか、廃止ありきでの話し合いには応じないなどと言っている自治体の首長が、そのローカル線とは特に関係のない住民や沿線に住んでいても一切鉄道を利用しない住民を納得させて、どれだけの費用を出せるかにかかってくるのではないかなと。
特に株式を上場しているJR各社は、株主への責任もあるのでそう簡単には赤字を垂れ流すローカル線の存続には動けないです。
上下分離方式や、完全な観光鉄道化に移行するにしても、結局は首長の判断次第。
現状のローカル線のまま線路を維持するとしても、それ相応の運賃の負担は必要になるでしょうから、負担増となる分を自治体がどれだけ補填できるか。
どの道を選んでも自治体の負担はかなりなものになるでしょう。
とにかく、廃止ありきの話し合いには応じないなどと言っている首長の皆さんは、どれだけ路線廃止を撤回させられるだけの案を持っていて、具体的に出すことができるのか。
もちろんJRだって廃線や上下分離方式だけではなく、どれだけ自治体と手を結んで存続の可能性を探っていけるのかも重要になってきます。
その覚悟が問われているのがこのローカル線の問題だと思います。