2023年7月14日からの豪雨によって秋田新幹線が19日まで全線運休となった。
あまりの雨の多さによって設備の被害状況の確認ができなかったことが原因で、幸いなことにその後の点検によって新幹線については大きな被害を被っていないことが確認されて、7月20日の始発から通常通りの運転となった。
秋田新幹線を利用しようとしていた人にとっては迷惑な話であったことに違いはないが、だからと言って鉄道会社に非があったとも言えない。
公共交通機関としてどこまでその責任を果たす必要があるのだろうか。
競争より協力というお花畑的論理
秋田新幹線が不通だった間に、ANAでは羽田~秋田路線に通常の中型機(B-767やA321など)に代わって、1往復だけ大型機のB777-300を投入し輸送力を高めた。
ただし機材繰りの関係やパイロットの都合により、通常より1時間ほど遅いフライトとなったと言う。
何せ飛行機は機種ごとに免許が必要で、さらに1年更新のようですから、航空会社も多くのパイロットに闇雲に複数の免許を持たせたりはしないでしょう。
飛行機の機材を変更する場合には、それに伴って別のパイロットの確保も必要になる。
そして今回の大型機の投入は、他の路線で使われている機材を到着後に整備したうえで臨時にあてがわれたものですから、定時での運行が不可能になったわけです。
この機材変更に伴う遅延によって、迷惑を被った人もいるでしょうね。
このANAが1往復だけ大型機に変更したことを受けて、
という内容の記事が出ています。
なるほど、たしかに利用者からすれば大変ありがたい提言ではあります。
利用しようとしていた交通機関が運休等により利用できない場合に、目的地へ行くことができる他の交通機関がバックアップとして本数を増やすなどしてくれればたしかに助かります。
秋田新幹線不通によってANAが1往復だけ大型機に変更しましたが、空想そして机上の論理ならば、ライバル関係にある交通機関同士が非常時には協力したかのように映ります。
ほんの少しはそう言った気持ちがANAにあったのかもしれませんが、それ以上に秋田新幹線ができるまでは飛行機のシェアが高かった同区間の奪回のために、そして通常使用している機材に比べて倍ほど搭乗できる機材に変えても空席は出ないとの判断、つまりは収益の向上を狙ったものです。
もちろん交通機関同士で協力できるところは協力すべきですが、他の交通機関のバックアップでの輸送となると協力という文字は浮かびません。
それは収益向上のため、そして利用者数向上のためにほかなりません。
それが企業というもので、勝つか負けるかの勝負をお互いに仕掛けているのですから。
企業間の競争によって利便性が向上していったという事実を忘れるべきではないし、今後も競争によってより良くなっていくわけです。
そして競争が行われない分野は停滞から衰退へと退化していくのが世の常であり、軽々しく競争から協力へなどと言うべきではありません。
日本は資本主義の国であって、一部の公営交通を除いて民間企業が運営しており、民間企業だから競争して他社に打ち勝とうとしているわけです。
どうしても協力しろというのならば、すべての交通機関を国営にでもしますか?
交通機関における冗長性と費用負担
冗長とは、重複していたり不必要に長かったりして無駄が多いことをさす言葉で、文章においてだらだらと長い場合には冗長表現などと呼ばれます。
ここから冗長性とは普段は無駄かもしれないが、何かあった場合の備えとしておくことに対して使われます。
交通機関における冗長性は予備の車両や機材を持つことになります。
一般的にどこの交通機関でも予備の車両や機材を持っており、事故や故障などによって所定の車両や機材が使えなくなった場合に、予備の車両や機材を使用します。
という内容の記事が出ています。
ということは
例えば東京~大阪という区間の輸送においては新幹線が80%、飛行機が20%というシェアを握っていて、新幹線が一週間ほど運行できない状態に陥った。
このJR東海の新幹線が握っている80というシェア分を、他の交通機関が代わりに運べと言うことですね。
もちろんお金はかかったとしても他の交通機関で移動できるのならば便利ですし、利用者としては歓迎するところですが、東海道新幹線が輸送する人員を他の交通機関が代わりに運ぶとすると、いったいどれほどの冗長性を他の交通機関に持っておけというのでしょうか。
飛行機の便数は現在の倍では補いきれませんが、機材やパイロットを現在の倍は用意しておけというのかな。
北陸新幹線と在来線を経由するにしても、現在の車両数ではまったく足りないでしょうから、JR東海のバックアップのためにJR東日本やJR西日本がそれだけの車両数や乗務員を用意しておけと言うのかな。
高速バスも今の台数では足りないから、車両と運転手を非常時用に常に確保しておけということ?
東京~博多間のシェアが新幹線が10%で飛行機が90%あるとして、飛行機が何らかの原因で飛べない時のために、JR東海や西日本は新幹線の車両保有数を現在の倍以上に引き上げろとでも?
それだけの車両や機材、そしてそれだけの人員を確保しておくとして、その莫大な冗長性の費用はいったいくらになるの?
そしてその費用は結局は利用者負担として跳ね返ってくるけど、今の運賃が倍とか3倍に近くになった時に、交通機関は冗長性を持つべきだと訴えた人以外は納得するのかな?
競争から協力へという論理もお花畑的だと思いましたが、他社のバックアップのために、あらかじめ車両や機材、人員を確保しておけという論理も本当にお花畑的です。
通常の運行に支障が出ない程度にまで費用を切り詰めて運営しているのに、その真逆を行えとはもう民間会社では無理な話です。
公共交通機関とは何か
まず公共交通機関とは何かというと、不特定多数の人々が利用する交通機関のことをさします。
ある特定の人だけが利用できる、例えば貸切列車やチャーター機とは違い、規定されている金額さえ払えばだれでも利用できる交通機関が公共交通機関です。
料金を支払ってきっぷを購入することで、交通機関と輸送に関する契約を結んだことになり、交通機関側には目的地まで運ぶという義務が発生するわけです。
だからと言って、自社路線で事故や故障などが発生して運行ができない場合は、基本的には払い戻しの処置が取られます。
交通機関側が契約に違反したからといって、違約金を上乗せして料金が払い戻されはしません。
このような内容の記事が書かれていましたが、なるべくではなく引き受けた交通機関が契約に基づいて輸送を完結しなければなりません。
ただし事故や故障等やむを得ない場合には基本的に払い戻しで対応し、自社で引き受けた契約を他社に押し付けるようなことはしません。
ただし都市部の鉄道においては振替輸送を行う区間が定められていますが、これは通勤通学という日常生活に多大な影響を及ぼすことを考慮しつつ、鉄道会社同士が輸送できない時はお互いさまとして実施しているにすぎません。
振替輸送を受託した交通機関は、基本的に臨時列車の運転などは行いません。
これも交通機関の冗長性の点から言えば、問題があるということになるのかな?
福知山線脱線事故時に長期間振替輸送を受託していた阪急に対して、なぜ増発や増結をしないのだというクレームが殺到したそうですが、乗務員の数や車両数の問題のほか、振替輸送で得る一人当たりの収入は、阪急の定期券や乗車券を購入して乗車している一人当たりから得る収入よりもかなり少ないのが理由だと聞いたことがあります。
本音で言えば、増発や増結を求めるのならば、JRの定期券を払い戻して阪急の定期券を購入してから言ってくださいというところでしょうか。
元々阪急を利用している人にすれば、通常の倍以上の混雑ぶりだったようなので迷惑だったでしょうね。
とにかく自社で引き受けた契約(目的地まで運ぶ)なのですから、その契約をもって他社に対して代わりに運べとは言えません。
契約した人数を確実に運ぶために臨時を出せなどと他社に言えるわけもない。
他社のために冗長性をもって普段から用意しろ、急に大量の旅客が押し寄せても大丈夫なように常日頃から準備をしておけ。
公共交通機関だから常に他社のことも考えておけという論理ですが、公共交通機関だからといってそこまで準備する必要はない。
電気の供給量が足りずに広範囲で停電した場合に備えて、別の地域の電力会社が必ず融通できるだけの電力の余裕を持っておけというのと同じ論理です。
電気は交通機関以上に生活に必要なモノですが、そんな言い分が通りますか?
もちろん非常時のために備えておくことは大切ですが、だからと言って他社のことを考えて、相当の余裕を持った運営をしろというのはさすがに暴論です。
費用対効果を考えない経営は利用者の負担が増すばかりか、結果的にその交通機関の存続にまで波及する問題です。
※引用記事はすべて
秋田新幹線「被災」で見えた、公共交通“効率至上主義”への疑念 これからは競争より協力の時代である
からのものです。