運転指令が出発時間前に信号を現示させた-2

つづき

結局ほぼ定時で普通列車を出発させた私と担当の車掌。

早発は運転事故扱いとなって処分されるほどやってはいけない行為です。

昔は5秒くらいならばあまり問題にはなりませんでしたが、もし運転指令がメチャクチャ早く現示させた出発信号機に従って出発させていれば、およそ1分30秒も早発です。

今ならばマスコミを賑わせる事態になっていたでしょうね。

私が入社するより前は1分や2分の早発も珍しくはなかったようですが、さすがに私が運転士になったころにはせいぜい10秒の早発が限度だったんじゃないかな。

この頃には早発に対する監視が厳しくなっていましたしね。

優等列車の待避をしているところへ、乗務区の区長がちょうど現れました。

私が列車無線で文句を言ったことが気になったからです。

「なぜあんな口調で無線で喋ったんだ?本社からもお前に対するクレームが入っているぞ」

運転指令は自分たちが行ったことを報告していなかったようです。

「運転指令が信号の手動介入を行って、1分30秒以上も早く現示させたからですけど」

そういうと区長は顔色が変わりました。

「文句を言っても信号を落としませんでしたから、運転指令へ行って何時何分何秒に現示させたのかを調べてきてください!データは残っているハズですよね、よく10秒ほど早発さたとかってデータを取り寄せて乗務員に詰め寄っているのですから」

ここまで言うと区長は

「・・・」

何も話さずに隣に入線してきた優等列車に添乗して運転指令所へ向かいました。

休憩時間に朝食を食べてから乗務区へ戻ってくると、運転指令の指令長が私を待っていました。

「今日は悪かったな」

と小声で話しかけてきたので

「なぜあれほど早く信号現示させたのですか!私を引っ掛けるためですか!」

と乗務区の中に響き渡るほど大きな声で答えた私。

「あの当該列車は毎朝遅れて出発する要注意の列車で、操作盤の前に大きくメモ書きして貼っているんだ。それでな、とにかく手動介入させてすぐに出発させるようにしてるんだ」

こう言われると頭に血が上ってきて

「じゃああなたは時刻も確認せずに憶測による取り扱いを行ったわけですね。それに普段あなた方は乗務員に対して数秒の早発も許さないという態度で接してくるようになっています。なのに指令のトップのあなたがそういう事を平気で言うのですか?」

相当大きな声で怒鳴りながら言ったので、乗務区の人間がみんなが私たちのほうを見ています。

ここはとことん言いくるめてやろうと思った時に

「もう離れろ!」

と言いながら乗務区の助役たち数人が間を割ってきました。

結局この時のことをどう処理したのかは分かりません。

指令長も指令員たちもその後も普通に勤務していました。

無線での口調が悪いと本社から言ってきていたはずですが、そのことも何事もなかったかのようにスルー。

平成の初めころの鉄道の現場って、できるだけ表には出さずに隠せそうなものはすべて隠し、そして何もなかったことにしよう。

ホントにこんな感じの世界でした。

表には出ていないもっとすごい事もいっぱいあったのですが、まぁうまくオブラートに包むように文章にできそうならば書いてみようかなとは思っております。