今とは違いお客様なんて意識はまったく持っていなかった

車掌の見習中の話を書いていて思い出したのですが、車掌見習で教習所に通っていた時に教習所職員から聞いた言葉です。

「俺が車掌の頃なんて乗りたければ早く乗れ!って意識でドアを閉めていたよ。少々閉まるドアに当たろうが挟んでしまおうがおかまいなしだったし。とにかくモタモタして運転士に怒られるないようにしなきゃという気持ちしかなかったから」

この話をした教習所職員はこのあと当然ですが

「今はそんなことしちゃダメだぞ!客ではなくお客様だからな。ただし運転士に怒られるようなことはしちゃいかんぞ」

 

教習所職員と書きましたが現場の助役上がりで教官をしている方、つまりは先生ということになります。
私より25歳くらい上でこの当時は45歳くらいの方ですが、この方が車掌をしていた当時はとにかく運転士の威厳がすごかったらしく、再開扉の操作をして出発が数秒遅れるだけでも乗務区に戻ってから怒鳴られたという時代ですから。
ただ運転士の威厳がすごかったというのは私自身が車掌の時に何度も何度も経験していますから、30数年前までは私が所属していた乗務区には確実に残っていたということです。

 

 

私が車掌になってすぐの頃って、早く出発や到着するのは良いけどとにかく遅らせることは許されないという雰囲気がありました。
でも後ろの方からお年寄りが歩いて電車の方に向かってくるのが見えたので、私はドアを閉めずに待っていました。
するとその日の運転士は勾配がある駅にもかかわらず、ブレーキを緩めてしまって電車を転がしてしまうのです。
明らかに車掌である私への嫌がらせです。
でも当時はこんなことがごく普通に行われていました。

「電車は駅で待って乗るもの、電車を待たせるなんてありえない!」

この言葉は私が運転士になった頃までよく聞いたセリフです。

電車を転がされながらもお年寄りを待ってドアを開けていた私。
緩い勾配だったので大した速度は出ていませんでした。
なんとかお年寄りが乗車してきてドアを閉めると、車掌である私からの出発合図を待たずして電車は急に起動します。
ブレーキを緩めてノッチを入れっぱなしにしていたのでしょう。

 

 

乗車したお年寄りが車内から私に話しかけてきました。
「電車に待ってもらったのなんて初めてです、ありがとう」

そして乗務区に戻ったときには
「年寄りなんかただでさえ乗降に時間がかかるし、ドアに当たったら吹っ飛んでケガするしで厄介なのに、そんなもん待たんでええねん!」
と運転士にはおおぜいの乗務員がいる前で怒鳴られました。

そして乗務区の助役には
「お年寄りをいたわるのは大切やけど、そのせいで電車が遅れて運転士の負担になることも頭に置いておいてくれ」

昭和の末期ごろに私が所属していたある鉄道会社のある乗務区では、こんな感じだったのです。

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