私が駅員の頃に配置されていた駅管区の駅長所在駅は、優等列車が停車するほか乗務員が交代を行う駅でもあり、比較的大きな駅でした。
乗務員が交代することもあって(今は別の駅で交代)優等列車でも40秒から1分程度の停車時秒が設定してあり(今はそれほど長く停車しないと思う)、車内での忘れ物を捜索する駅の一つになっていました。
忘れ物を捜索するのは駅長室内で勤務する内勤、または駅信号士か助役で基本的には内勤が行っていました。
鉄道電話で他の駅から
「○○駅の内勤××です、遺留品捜索をお願いします、列番(列車番号)〇〇〇〇、大方(大阪方)3両目第2と第3扉の間の山側網棚。ブツはボストンバッグで色は黒、白文字が入ってます。」
こんな感じで捜索依頼を受けて、当該列車へ探しに行きます。
この例だと忘れ物は山側なので、もしも到着列車の浜側にホームがあるのならば、浜側ホームから列車が進入してくる時に車内を凝視します。
3両目と連絡を受けていても、よく違う車両に忘れ物があったなんてことがありますから。
実際のところ、自分が何両目の車両に乗車していたのかなんて分かっていない人のほうが多いですから。
列車到着前にあれかも?と当たりをつけることができれば、忘れ物の捜索は楽勝です。
車内に入って
「こちらのカバンの持ち主の方はおられますか?」
と乗客に聞きます。
自分が座っている真上の網棚ではなく、常に視界に入るようにと真向かいの網棚に荷物を置く方もいますからね。
何も反応が無ければ
「ではこちらのカバンをお預かりします」
といって車両から出てきます。
遺留品を持って事務室に戻り、捜索依頼のあった駅へ電話します。
「〇〇駅長室内勤のこうすけです、先ほど依頼のあった遺留品見つかりました」
この電話を入れるまでに捜索依頼を行った駅では忘れ物をした旅客に対して、忘れ物が見つかった場合は見つけた駅へ内容物の確認などのために行かなければいけないことを説明しておきます。
たいていの人は依頼した忘れ物が見つかればすぐに向かいますと答えますが、中には送り返してほしいという人もいます。
私が駅員をしていた昭和50年代は定期券など一部の品物を除いて、忘れ物(遺留品)を列車で運ぶことはしていませんでした。
「当社では忘れ物を運ぶことはしませんので、明日以降に○○駅にある忘れ物センターへお問い合わせください」
ここまで言うとほとんどの人は遺留品が上がっている駅へしぶしぶ向かいますが、中には憮然として帰ってしまう人もいました。
「では忘れた方にそちらへ現物の確認のために向かってもらいます、お名前は〇〇と言う方です」
との返答がくるか
「取りには行かれないそうなのでセンター送りでお願いします」
捜索に行っても見つからないことも当然あります。
「〇〇駅長室内勤の街道です、先ほど依頼のあった遺留品ですが、3両目と4両目を確認しましたが見当たりませんでした」
と電話を入れると依頼した駅の内勤は、次の内勤が勤務している停車駅へ同じように依頼をする、と言う感じでした。