JR各社が抱える赤字ローカル線の存続問題がクローズアップされていますが、該当する路線を抱える自治体の反応はおおむね似たような感じですし、路線廃止に反対するグループも残念ながら目新しさに欠けるという感じです。
本気でローカル線を再建したいのならば思い切った方策を打ち出す以外に手はなく、それは自治体や利用者にもある程度の負担を強いることになるでしょう。
レストラン列車でローカル線は復活しないに同感
レストラン列車などの観光列車を走らせることで利用者を呼び込み、鉄道単体では赤字脱却はできないにしても、沿線を全体的に見た場合にそれまでよりも収益が向上していれば、鉄道の利用者が少なくても地元自治体にとってはプラスである。
えちごトキめき鉄道の社長で、いすみ鉄道でも社長を務めたことで知られる鳥塚亮氏はこのような考えも示されています。
観光列車を走らせ、その乗車を目的に観光客を呼び込み、車内では地元産の食材を使った料理を振舞い、さらに沿線の宿泊施設やその他の観光施設にお金を落としてもらうことで、地域全体としての収益の向上に寄与する。
このため鉄道単体での利益はそれほど重要視せず、極端な話が輸送密度が悪くても問題はない。
この考えが悪いとは言えないですし、これから先の鉄道の在り方の一つとして考えていくべき方策ではあります。
ただしこの手法が全国の存廃問題に揺れるローカル線すべてに当てはまるとは思えないし、また数多くあるローカル線が全てこのよう観光鉄道として生きていけるのかというと、いささか疑問です。
そのすべての観光列車がそれぞれ独自の特徴をもつものにしなければ、一過性のブームで終わる危険性が高い。
それに対してひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長は、レストラン列車でローカル線は復活しないと提言されており、本来の鉄道輸送に今までなかった面をプラスすることで復活させています。
沿線住民が求める利用しやすい鉄道の提供
鉄道会社の最大の商品はダイヤです。
いかに利用しやすいダイヤを提供できるかが、鉄道会社の最大の腕の見せどころです。
ところがコロナ禍以降の鉄道事業者のダイヤ改正を見ていると、減量ダイヤに突っ走っています。
都市部の鉄道の場合、なかなか通勤客が戻ってこず通勤定期券の発行枚数がコロナ禍以前に水準に戻ってこないにしても、ある程度の旅客数は必ず利用します。
このために戻ってこない旅客水準に合わせて運転本数を減らしたところで、収入はたしかに減りはしますが、存続の危機にまで陥ることまでは考えにくい。
※ダイヤ改正とは鉄道事業者にとって都合の良いダイヤに変更することであり、利用者にとっては改正ではなく改悪となるケースもかなり多い
ところが地方のローカル線で同じように、旅客の減少幅に合わせて運転本数や編成両数を短くしていくと、まったく使い物にならない商品価値のないダイヤに仕上がってしまいます。
そしてこれ以上運転本数や編成両数を減らせない水準に達して、さらにこれまでと同じような赤字補填が都市部の鉄道の利益で行えなくなると、ついには廃線しか取る手段がなくなってきます。
今各地の存廃問題の危機に立たされているローカル線はまさにこの状態です。
ひたちなか海浜鉄道の場合は、小中学校の統合によってできた新しい学校が沿線にでき、その学校の前に新駅を開業させて通学に利用しやすくしたこと。
他路線(JR)との接続時間に余裕を持たせて利用しやすいダイヤとしたこと。
鉄道利用者に乗車証明書を発行して、地元の店舗等での買い物で割引が受けられるといった、沿線住民が鉄道を残そうとする意欲が強く協力も大きかったこと。
また行政の支援が無ければ絶対に会社の存続自体が無理なのだが、あくまで側面支援に徹してくれたことなどがあります。
沿線住民の熱意も大事だが
ローカル鉄道の大半は存続自体がかなり厳しい状況になっていることは間違いありません。
そしてJR各社が公表した特に収支が厳しい路線では、廃止反対運動が起きているところもありますし、もっと地元の鉄道に愛着を持ってもらうというマイレール運動を展開している地域もあるでしょう。
このような住民の熱意も大事ではあるのですが、ローカル線を今後も存続させていくと、なるとやはり乗車人員を増やすことがもっとも大事です。
廃止反対運動を行う日だけ運動参加者が乗車するだけではダメで、やはり平日にどれだけの人が通勤通学や買い物で利用しするのかがもっとも大事です。
定期外収入も大事ではあるのですが、鉄道会社としては定期収入という安定した収入がやはり必要です。
そのためには接続している他路線との接続改善は必須です。
列車に乗って乗換駅に到着したものの接続列車は1時間後、のようなダイヤでは鉄道ではなく自家用車など他の移動手段を使って通勤するでしょうし、学校へも車で送ってもらうことになります。
そして駅の近くに役場のほか学校や病院を配置するなど、鉄道利用がしやすい環境を整えることも大切です。
そこまでしてから観光列車の走行を考えて、沿線住民以外の利用も促進するというのが常套手段だと思います。
役場や学校に病院を駅周辺に移転統合する、またはそれらの施設の近くに鉄道が走っておれば駅を設置するという、沿線の方が鉄道を利用しやすい環境づくりこそが自治体が行うべき本来のローカル線対策です。
それだけ自治体はそれ相応の出費も覚悟する必要があるということですね。
さらに廃止反対を唱える自治体は、最低でも施設の維持管理は自治体が責任を負って行うべきでしょう。(上下分離方式)
「金は出すけど口は出さない」
のスタンスも絶対に必要ですよ。
ただこの方法だってどこの路線でも実行可能かというと、難しい面が大きいように思います。
あまりにも過疎化した地域の鉄道の場合は、自治体が公金を投入して様々な施策を行ったとしても、もともと利用するであろう人数が少なければどうしようもない。
そういった路線を観光鉄道化したところで、最初は物珍しさで集客できてもその後が続かない可能性があまりにも高い。
それほど矢継ぎ早に新しいアイデアは沸いてきませんからね。
コンパクトシティとして居住区域を狭い一定の範囲内に集約するといった、大胆な政策ができる自治体ならば鉄道の存続も可能かもしれませんが、日本人は先祖代々が住んできた土地を離れたくはない、子供の時から住んできた土地を手放したくはないという考えを持つ人も多いでしょうから、コンパクトシティもそう簡単には実現しないでしょうね。
そう考えていくと地域の足として残せる可能性のある鉄道と、もうほぼ残せる可能性のない鉄道が浮き上がってくるのではないでしょうか。
ある程度の沿線人口があり、学校や病院のほか観光施設が沿線の最寄り駅のすぐ近くにある、または駅を作れば利用者が増加する可能性がある。
とくに有名な観光地が沿線にあり、その観光地を生かした観光列車を走らせることも可能である。
そして現状のJRのローカル線運賃の2倍以上に跳ね上がったとしても、鉄道を利用する人が一定数いる。
運賃高騰のために自治体が補助を出すなど、利用促進策を数年以上は継続して行えること。
鉄道の施設等は自治体が買い取って維持管理し、鉄道会社は列車の運行と営業だけに集中できる環境を作ることができる。
これらのことをクリアできなければローカル線存廃問題は早めに見切って、代替交通の確保を早急に考える方が現実的ではないかな。