置き石より怖かった

その日は夕方から雨が降り始め、夜には本降りとなりました。
私は普通列車を担当していて、空転と滑走に悪戦苦闘しながら運転していました。
車輪とレールは金属同士ですから水がかかるとグリップせずに車輪が空回りしますし、ブレーキをかけると車輪の動きを一瞬にして止めてしまい、そのまま滑っていくことがあるのです。
滑走のほうに関しては、電磁直通ブレーキなど昔ながらのブレーキのほうがコントロールしやすい気はしますね。

 

ある駅に近づくと場内信号機がR(赤)のままで変わりません。
先行する優等列車がまだ停車中のようでした。
列車無線が入ることもなかったので、乗降に手間取って遅延しているか、空転して思うように走らず遅れているかのどちらかでしょう。

 

場内信号機がY(黄)に変わったので45㎞/hまで加速して駅へ進入していきます。
ホームの端っこに駅の助役が立っているのが見えました。
そのすぐあと
ドーン!
という音ともに電車が浮き上がるような衝撃を受けました。
何やらカラフルな絵が見えたのは分かったのですが、何があったのかが分かりません。
当然ですが非常制動を入れました。

 

列車無線でこのことを運転指令に報告していると、停目(停止目標)辺りに立っていた別の駅の助役がこちらへ走ってきます。
非常制動で止めたので停目よりかなり手前に止まったためです。

私「一体何が?」
助「雑誌が置かれているんだ」
私「は?」

 

置かれていたのはジャンプやマガジンといった少年向けの漫画の雑誌でした。
雨で濡れて重たく硬くなっているとのことです。
分かっているのならば撤去しろよと抗議したのですが、私の列車が接近していて危険だから撤去できなかったと。

 

 

乗務区に戻って休憩していると、乗務区詰めの助役がやってきました。
何を言うのかと思ったら
助「3本前の列車くらいから踏んでいって固まってたみたいなんだ」
運「それで誰も無線は入れなかったの?私が聞き逃したのかな?」
助「いやそれが・・・誰一人無線を入れていないんだ」

よく軌道内のバラストをレールに置くいたずらをされますが、あれでもドキッとしますし最悪の場合は脱線してしまいます。
ただほとんどの場合、石は列車の重みで砕け散ります。
でもそこそこ厚みのある雑誌は雨を含んで固くなり、列車が踏む程度では千切れることもありません。

気が動転して無線を入れ忘れたのかもしれませんが、さすがにこの時は助役に噛みつきましたよ。
「無線も入れられないやつに運転なんかさせるな!」
ってね。

今でも雑誌に乗っかって浮き上がり、そのあとレールに叩き付けられた感触は忘れません。
もう10数年前の出来事ですけどね。

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