伝説の車掌-2
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伝説の車掌-2

車内巡回の鬼

私が車掌になりたての頃、同じ乗務区に有名な車掌がいました。
“車内巡回の鬼”と呼ばれる人で、とにかく車内巡回にずっと入っている人でした。

私が所属していた乗務区は単なる通勤路線を受け持つだけだったのですが、そんなことは関係なくとにかく車内へ入っていました。
昔ですから車掌は車内補充券を携帯しており、乗り越しや乗車変更に対して発券業務も行っていたのですが、カーボン複写式の車内補充券を売り切って
「え~車掌の〇〇ですが、補充券が売り切れたので補充の手配をお願いします」
って無線がよく流れていました。

車内補充券の売上と成績

車内補充券は複写式ですから2枚で切符1枚分、1冊で25セット分が綴られています。常にまっさらの車内補充券を持って乗務することはありませんが、それでも車内で売り切ってしまう車掌は他にはいませんでした。
優等列車はもちろん車内へ入りますが、各駅停車でも頻繁に車内へ入っては車内補充券を売りまくっていたのです。
ほとんどの車掌は通勤路線ということもあって、あまり車内へ入ろうとはしませんでした。ただ会社側が成績を付ける際には車掌の車内巡回の頻度が問われていたのですが、ずっと車掌を見張っているわけにもいきません。
そこで車内補充券の売り上げを車内巡回の回数とリンクさせて成績としていたのです。

 

車内巡回のまさかの理由

私はこの車掌は切符を売るのが好きで車内へ入っていたのか、または成績を上げるために車内巡回に入っていたと思っていたのですが、この車掌の口から出た言葉に唖然としたのです。

「切符を売るのなんか面倒で嫌いだし、成績なんかどうでも良い。ただ車内で女の子をナンパしてただけ」

まだ携帯電話が無かった時代ですから、女の子を見つけては切符を発売するフリをして電話番号が書かれたメモを渡す。
周り乗客からは切符を発売しているように見えるので、他のお客さんは乗り越しの清算をしておこうと思い車掌に声をかける。なので車内補充券が売り切れるほどに売っていた。
これが実態だったのです。

当然ですが、電車に乗っていて車掌から声をかけられたら不審がる女性も大勢いたようですし、車掌にナンパされたといった苦情もあったようです。
ですので会社の助役や首席助役をはじめ、事務方の上司たちも“車内巡回ナンパ”の実態を知っていたので、車内巡回の回数のわりには成績は悪かったそうです。

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